第534話 桜の苗木を、皆で植える
私は、孤児院の子供たちと一緒に、桜の苗木を植えることにした。
さっさと終わらせたいのなら、 『ヒロゲルクン』のメニュー、『植樹』を使えば一発だ。
でも、せっかくなら苗木づくりを手伝ってくれた子たちにも植えてもらったほうが、桜が咲いたときの感慨もひとしおだと思ったのだ。
しかし、温室に一晩置いただけなのに、どれも同じくらい成長(私の腿くらいの高さ)していたのには唖然となった。
「さて、桜の苗を植えるわよー」
「おー!」
「おー!
『オー!』
張り切る精霊の声が聞こえたような気がしたけれど、そこはスルー。
なぜか孤児院の子供たちだけではなく、獣人やドワーフたちも張り切っている。去年の花見を覚えているからだろうか。
ちなみにモリーナとアビーはいない。もうすぐ魔道具職人の師匠であるギャジー翁がやってくると連絡があったものだから、大慌てで何かやっているらしい。
元あった桜の木の跡は、道沿いにそのまま残っている。私はそこを目安に1本1本苗木を置いていく。
「よーし、土を掘り起こせ」
「この黒いのはどうしますか」
「黒ポッドは取っといて」
「へい」
力仕事は大人たちがやってくれるので、大きな子は大人たちの手伝いを、小さな子たちは如雨露に水をいれて撒いて回っている。
そんな小さい子たちの後を水の精霊たちがついていってる姿は微笑ましい。
「あれ~、みずがへらな~い」
「やだー、あふれてきたー」
「きゃー」
色んな声が聞こえてきたが、あえてスルー。
――いいかげん学べ、精霊たちよ。
そう心に思いつつ、私は桜並木の方へと意識を向ける。
道の半分くらいまで苗木を置いたところで、村人たちがどこまできているか様子を確認する。ここまでくるのは、まだ時間がかかりそうだ。
「よし」
私は『収納』からスーパーカブを取り出すと、それにまたがり、エンジンをかける。
エンジン音に反応したのか、エイデンの城のある山のほうからホワイトウルフたちが現れた。
『どこかいくの?』
ホワイトウルフの集団の中にいたのは、三つ子の中でものんびり屋のシンジュだった。
さすがビャクヤとシロタエの子。他のホワイトウルフよりも二回りくらい大きくて、まるで親子みたいだ。
ドッドッドッというエンジン音を恐れないホワイトウルフたちは、尻尾を振りながら私を見上げている。
「ちょっと歩くのには距離があるから、出しただけよ。そんなに遠くにはいかないわ」
『そうなの?』
「ええ。ウノハナとムクはどうしたの」
『ウノハナとムクはー、あっちのやまで、わたしたちのことさがしてるー』
あっち、と言って鼻先を向けたのは、ログハウスのある山のほうだ。
『いまは、おにごっこのさいちゅうなのー』
「え、いいの、こんなところにいて」
『だいじょうぶなのー』
ウオウオッ
一匹のホワイトウルフが声をあげる。
『あー、だいじょうぶじゃなくなったー。じゃあ、またねー』
そう言ったとたん、シンジュ率いるホワイトウルフたちは獣王国の方へ向かって走っていく。
――あの子たちのおにごっこの範囲ってどこまでなんだろうな。
遠い目になりながらも、私はスーパーカブで桜並木の最終地点、獣王国の森の近くまで向かうのだった。





