第525話 瘴気を消すのって大変
結局、桜を植え終えるのに3日かかった。
そのうちの半日を、桜の苗木を用意するのに費やした。ノワールや精霊たちのお手伝いがあったから、この程度の時間で済んだんだろう。
その間は久々のテント暮らし。
食事は非常食用にと『収納』にしまっておいたカップラーメンと、まとめて作ってあったおにぎりで済ませた。
正直、すぐ近くに真っ黒な『瘴気』があると思うとおちおち寝てられないと、思ったんだけど、身体にたまった疲労であっさり撃沈。
結界を張っているエイデンは不眠不休だったのを思うと、ちょっとだけ罪悪感。
苗木はやっぱり小さいせいか、大きく育った桜の木ほどの浄化の力がないようで、黒い靄の『瘴気』の圧迫感が強い気がした。
それでも大きな桜の木の周辺はだいぶ『瘴気』が消えてきたようで、土地は黒ずんだままだけれど、靄は晴れてきている。
「やっぱり、一気には消えないねぇ」
桜を植え終わった私は、エイデンと一緒に『瘴気』の様子を見ている。
「うむ……中央に『瘴気』を生み出す何かがあるようだ」
「え、わかるの、そんなこと」
「ああ、『瘴気』の流れを見ればな」
まだ結界をはってはいるものの、今は私とお茶をする余裕があるエイデン。
彼の右手にはおにぎり。『収納』にしまってあったおにぎりは残っていない。戻ったら、また作らないと。
「……中に入って見てくるしかないか」
最後のおにぎりを食べ終えると、エイデンはボソリとそう言った。
「ちょ、ちょっと、あんな中に入って大丈夫なの!?」
あのモヤモヤ蠢く中に入るとか、どんな強心臓なんだ。
想像しただけで、ざわざわと鳥肌が立つ。
「問題ない。自分の周りに結界をはればいいだけだ。ただ、二カ所同時には張れないんでな。今はっている結界を外さねばならん。しかし、まだ、浄化が弱いところがあるからな……」
桜の苗木では『瘴気』に負けるってことなのだろう。精霊たちが成長を促してはいるものの、本数が多いから、思ったほどには育っていない。
「まぁ、短時間だったら漏れたとしても、なんとかなるか(どうせ帝都のほうに流れていくだけだろうし)」
「え、でも、苗木が『瘴気』に負けちゃわない?」
「……ないとは言えない」
また桜の苗木を育てるのかと思うと、ゲッソリ。
どうしたものか、と二人で『瘴気』を見つめていると。
「あー、いたいたぁ! サツキ様!」
「……」
なんと、元気なモリーナと魂が抜けたような顔のドレイクが、ビャクヤとハクの背中に乗って現れた。
「ど、どうしたの」
「いやぁ、ユグドラシルが、これを持ってけと言うものですから」
モリーナがニコニコしながら背中のリュック(たぶん、マジックバッグ)から、立派な枝を数本取り出した。
「それって」
「……ユグドラシルの枝です。これを持って行くようにと、土の精霊経由でユグドラシルが伝えてきたのです」
なんとか意識が戻ってきたドレイクだけど、まだ声には力はない。
『そうよ。これをうえればじょうかがすすむだろうって』
『ユグドラシルがちからをこめたって』
『これなら、すぐにねづくわよ』
土の精霊たちの言葉に、ヤル気が出てくる。
「いやぁ、もっと早くに着くかと思ったんですが、まさか、こんなに遠いとは思ってもいませんでしたわ(でも、ビャクヤ様の背中に乗れたし、役得、役得)」
「(おかげで、僕は死にかけましたけどね)」
「持ってきてくれてありがとう!」
私は枝を受け取ってお礼の言葉をいうと、すぐさま植えるのに丁度良さそうな場所を探しに向かった。
活動報告で、キャラデザ紹介第三弾を載せました。
ご覧になってみてください。<(_ _)>
https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3194913/





