第513話 おせちと、お雑煮
簡単栗きんとんが出来上がった頃、雨から雪に変わった。
年の変わった今朝、窓の外は銀世界になっている。
そして目の前には、お雑煮を食べているエイデンがいる。
「五月、餅、もう一個くれ」
「……自分で焼きなさいよね」
そう言いながらも、腰をあげてキッチンに向かう私。
魔道コンロの上に網焼きをのせて、四角い餅を炙っていく。
――まるで、熟年夫婦みたいだわ。
色気もへったくれもない。思わず、苦笑いを浮かべる。
結局、おせちを作り終えた後、お雑煮のおつゆ(ちなみに醤油ベース)も作り始め、気が付いたらすっかり日が落ちていた。
その上、雪まで降り出したので、そんな中をエイデンを追い出すのも忍びなかったので、仕方なく、泊めてあげたのだ。
泊めたと言っても客間はないので、リビングで寝てもらった。
ソファでもあればよかったのだろうけど、そんな物はないので、厚手のラグの上に毛布を渡して寝てもらうことになった。
――私が起きてきた時には、もう暖炉に火をいれてくれて温かかったから助かったけど。
いつもは一人で階下に降りていく時、おしゃべりな精霊が何人かついてはくるものの、今日はエイデンがいるせいか、いつも以上に大勢で賑やかだった。
狭いテーブルの上には、雑煮の他に、昨日作った筑前煮や紅白なます、簡単栗きんとんの他に、紅白のかまぼこも並べてある。
普段、日本酒は飲まない私ではあるが(基本、ドワーフ用)、お屠蘇代わりに小さなお猪口に1杯だけ。エイデンは、ガラスのコップになみなみと入っている。これくらい飲んでも、酒を飲んだうちに入らないのだ。さすが古龍。
焼き上がった餅を、エイデンの雑煮のおつゆに入れてあげる。
ついでに、自分の分も追加した。
「ふむ、この『チクゼンニ』、旨いな」
「あら、そう。よかった」
出来上がってみると、私としては少し味が濃いめになってしまったと思ったんだけれど、美味しいと思ってもらえたのならよかった。
「旨いといえば、昨夜のソバも旨かった」
「あ、そう」
大晦日といえば、年越しそば。
なのに、去年はジェアーノ王国からラインハルトくんたちが逃げて来て、村全体がバタバタで作る暇も食べる暇もなかったし、一昨年は……塩ラーメンだったか?
今年は乾麺の蕎麦をかなり買い込んできたのは、今年こそは年越しそばを食べるつもりだったからだ。
私の中での年越しそばといえば、大きなえび天をのせている物なのだけれど、さすがに自分で天ぷらをあげる気にはならなかった。なので、えび天のかわりに天かすをのせた。
ついでにワカメやネギ、かまぼこに温泉卵をのせた。えび天ほどの豪華さはなかったけれど、自分でも納得の年越しそばになった。
……そこにエイデンが加わることは予想してなかったけれど。
『サツキ、コッコのおにく、ちょうだい』
マリンがこてんと頭を傾げながら、筑前煮の肉のおねだりをしてきた。
「こんなしょっぱいの、猫はダメよ」
『ねこじゃないわ! せいじゅうバスティーラよ!』
「あ、忘れてた」
『ひどいわ!』
本人(本聖獣?)がいいのなら、いいのか、と思いながら、小さな肉を分けてあげる。なんとも、穏やかな朝である。
――今年は、もう少しトラブルのない1年になるといいんだけど。
コケコッコーと、鶏の鳴き声を聞きながら、そう思った私なのであった。
活動報告で、キャラデザ紹介しています。
ご覧になってみてください。<(_ _)>
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