第508話 温室を作ってみよう(3)
ドワーフのヨハンたちからはお手製のガラスとミナミオオギヤンマの羽から切り取って貰った物を、エイデンからはケイドンのガラス工房のアダーモさんに作ってもらったガラスを受けとって、温室の材料が揃った。
そしてケイドンの街から戻ってきた翌日。
澄んだ青空が広がる中、水浴び場の隣に作った空地の前に立つ私と、ホワイトウルフたち。吐く息は白く、けっこう寒い。
「よ、よーし、温室作るぞー!」
『おー!』
『おー!』
気合の入った私の声と、それに反応する精霊たち。そしてウォウォと反応して吠えるホワイトウルフたちの声に、気分があがる。
タブレットを手に『タテルクン』を開く。メニューに示された『温室』の種類の中から選んだのは、前から決めていた『両屋根式』。大きさは大中小とあるけれど、今の空地のサイズ(ログハウスと同じくらい)と、材料の量からも中サイズがベストだ。
「ポチッとな」
メニューを選んだ直後、目の前にポスンっと現れた温室。
ガラスに日差しが反射してキラキラと光っている。壁の部分はミナミオオギヤンマの羽が嵌っているせいか、綺麗な虹色に輝いている。屋根は、ヨハンさんとアダーモさんのガラスが左右の屋根に使われているようだ。
「おじゃましまーす……おお~」
私は温室のガラスのドアをゆっくりと開けて、中に入ってみると、天井から日差しが降り注いでいる。ミナミオオギヤンマの羽の淡い虹色の光は、教会のステンドグラスを連想させる。
その上、精霊たちが入ってきてわちゃわちゃしてるものだから眩しすぎて、思わず目を眇めてしまった。
まだ出来立てなので、中はあまり外と気温は変わらないけれど、もう少ししたら暖かくなるだろう。
でも、床はコンクリート敷き。土のようにジメジメしないだろうけれど、夜から朝にかけて、少し冷えるだろう。
「まぁ、それを見越してモリーナに頼んでおいたんだけど」
私が『収納』から取り出したのは、小型の電気ストーブみたいな魔道具。一番奥の壁際に1つと、真ん中に1つ、出入り口の扉の傍に1つと、合計3つ設置した。
元々、まったく新しい物を創り出すのが苦手なモリーナだけれど、既存の物を改良するのは上手なのだ。
この魔道具も、暖房の魔道具としてモリーナの店にあった物をベースに小型化してもらって、ついでに自動のタイマーも設置してもらった。ちゃんと稼働するかの実証実験も済んでいる。
やれば出来るじゃん、と思ったけれど、褒めると暴走しそうなので何も言っていない。
「あとは、マンゴーと、アボカドと、苺」
トントンと『収納』から取り出して置いていく。
中央にマンゴーとアボカド、南側の壁に沿って苺のプランターが載った棚を並べて置く。
「……なんか、広すぎた?」
植物の方が少なくて、空きスペースの方が広い。
追加で何かを植えるべきか、と悩んでいると、空いているところで数匹のホワイトウルフたちが昼寝を始めている。
白い塊が魅惑的に見えてしまった私は、思わず彼らの背中に寄り添ってみた。
「うわ、あったか~!」
日頃、毛梳きチームに梳いてもらっているせいか、万全の毛並みの彼ら。抱き心地がいい。
「やばい、このまま寝ちゃいそうだわ」
その言葉の通り、しばらくして完全に瞼が落ちてしまった私なのであった。
* * * * *
後からやってきたウノハナとシンジュ。
『えー、なんで、あんたたちがサツキとねてるのよー』
『ちょ、ウノハナ、しずかにしなよ』
『でも、シンジュ、これ、ずるくなーい?』
五月の傍にいたい二匹は、温室の中に大きな身体を入れると、無理やり他のホワイトウルフたちを追い出してしまった。
「うーん?」
『あ、おきちゃう!』
『しーっ!』
「はっ!?」
結局目が覚めた五月は、ホワイトウルフたちからウノハナとシンジュに変わっていたことに驚くのであった。





