第502話 エイデンとノワールの帰還
エイデンとノワールの姿に気付いたのは精霊たちだけではなかった。
村についてみると、村人たちも集まりはじめていたし、その中には孤児院の子たちと、大きな古龍の姿を見ても怖くないのか、目をキラキラさせているザックスとフェリシアがいた。
私が着いたタイミングで、人の姿になったエイデンがゆっくりと降りてくる。その後を人型のエイデンよりも大きくなってしまったノワールがついてきている。
「おかえり!」
駆け寄る私に、満面の笑みを浮かべるエイデン。
「待たせたな」
『いっぱい、とってきたぞ!』
そう言って得意げに言うノワールに、子供たちが群がっている。
「ありがとう! どれくらいあるかな。足りなければ、ヨハンさんかケイドンのガラス工房に追加をお願いしなくちゃ……」
私の言葉が言い終わる前に、エイデンの脇に歪んだ空間が現れると、そこに手を突っ込んで次々にバカでかい虹色に輝く透明な羽を取り出していく。
ついには山のように積み上がった状態になってしまった。
「は?」
羽の形からしてトンボなんだろうと思うけど、1枚の長さが私の身長よりも大きい。2メートルから大きい物は3メートルくらいありそうだ。先端部分は細いので、幅の太いところから取ったら1枚の羽で2枚はいけそうだ。
ケイドンのガラス工房のアダーモさんのところがどれくらい作れるかわからないけれど、これだけあれば予備の分もできそうではある。
「ず、随分獲ってきてくれたのね」
「うん? 足りなかったか?」
「十分ですっ!」
それにしても、エイデンにしては時間がかかったけど、どこまで行ってきたのだろうか。
「こ、これは、もしや、ミナミオオギヤンマの羽?」
集まっていた村人の中にヨハンさんもいたらしく、人込みをかき分けて出てきて山になっている羽に触れながら驚いている。
「ああ。そんな名前だったか。最初はドワーフの国の南に行ったんだが、やはり、もう見当たらなくてな」
『そうそう。だから、ずーっと南下してったんだ』
「かつて%#▽@&%があった所まで下ったんだが、そこは砂漠に没していてな」
『そこを越えたら、すーごい魔素の濃い森が広がってたんだ!』
「あの森の魔物は、この辺りの魔物よりも大きくてな。大きい分には困らんだろう?」
途中聞き取れない言葉があったのは気になったものの、単に発音の難しい言葉だったのだろう。
それよりも、羽だけでこの大きさだと本体はどれだけ大きいのか。目の前にあったら、叫び声をあげているかもしれない。
「あの、羽だけ?」
「うん? 必要なのは羽の部分だろう?」
「いや、そうだけど」
丁寧にむしって持ってきてくれたのはありがたいものの、その本体のほうはどうなったのかは、多少は気になるわけで。
『あれは、美味しくないよ?』
うぇーって顔のノワール。
――あんた、虫を食ったのか……いや、ドラゴンだったら何でも食べるのか?
うーむと眉間に皺をよせて考えていると。
「五月、美味しい肉ならちゃんと狩ってきてあるぞ? ギヤンマなんか食うな」
「食わないわよっ!」
エイデンの心配そうな言葉に、私、どんだけ食いしん坊キャラなのよ、と思ってしまう。
「まぁ、このサイズのギヤンマを食うのは、こいつらぐらいだったけどな。よっと」
ドシンッという音とともに取り出されたのは。
「ワ、ワイバーン!?」
「こ、これ、もうドラゴンと言ってもいいくらいなんじゃ」
『おい、こんなのと一緒にするなよ!』
村人の言葉にノワールが不機嫌そうに反論するけれど、皆はワイバーンにくぎ付けだ。
私からしたらドラゴンじゃなくて、プテラノドンとかの空飛ぶ恐竜なんだけど。
「ギヤンマの肉を放り投げると、寄ってくる寄って来る。入れ食い状態ってヤツだな。ああ、あと、こんなのも獲ってきたぞ」
――え、オーク? あれ、ワイルドボア? 色も大きさも全然違うっ!
――虎みたいなのもいるっ!?
――に、鶏のデカいのっ!?
虹色の羽の山よりも高く積まれた魔物に、村人たちも唖然となる。
「お前ら、好きにしろ。さっさと解体しないと悪くなるぞ(いいところは五月に渡しとけ、いいな?」
「(は、はいっ!)」
……とりあえず、この冬は肉に困ることはなさそうだ(遠い目)。





