第492話 ガラスを手に入れる(2)
夜明け前に村を出た私たちがケイドンの街についたのは、昼を過ぎた頃のことだった。
今回は、街の近くの森に軽トラを置かずに、遠くに人の姿が見え始めたところで止めて『収納』した。
ちなみに、軽トラ初経験のピエランジェロ司祭とマークの二人は、終始ご機嫌。
さすがに老体のピエランジェロ司祭を荷台に乗せるわけにもいかず助手席に、マークはスコルとメリーと一緒に荷台に乗っていた。
私的には、ガタガタの舗装されていない道路のせいで、二人が車酔いしないか心配だったけれど、そんなことはなかったのでホッとした。
「1年半ぶりかしら?」
前回、エイデンがぶち壊した門の脇の扉は直ってるし、そもそもの大きな門も開け放たれている。門の両脇には衛兵らしき人たちが立っていて、街に入ろうとする人のチェックをしているようだ。
「次っ!」
ピエランジェロ司祭が先頭となって衛兵の方へと歩いていく。
「おお、司祭様ではないですか!」
「久しぶりです、ゴードン」
どうも司祭の知り合いらしい。
中年の衛兵が目をまんまるにして驚いている。
「辺境の村に行かれたと噂になっておりましたが……お元気そうで何よりです」
「ええ、見ての通り、以前よりも肉がついてしまいましたよ」
話好きの衛兵らしく、長話が始まりそうだったので、ツンツンと司祭の背中をつつく。
「ああ、そうですね。ゴードン、詳しい話はまた今度。街に入ってもよろしいか?」
「おっと、すみません。仕事を忘れるところでした。身分証をお願いします」
――え、身分証!? この世界での身分証なんて持ってないよ!
前回はエイデンが無理やり入ったおかげで身分証無しで入れてしまったので、気付きもしなかった。
司祭もマークも掌サイズの茶色っぽい板のようなモノを取り出して見せている。
「……どうかしましたか?」
スコルが後ろから声をかけてきた。
「私、身分証ないんだけど」
「ああ! でしたら、入街料を払えば大丈夫です」
「そうなの? あれ、もしかして、スコルたちも?」
「私たちはギルドカードがありますので、これで入れます」
冒険者に限らず、色んな組織のカードがあるらしく、それが身分証代わりになるのだとか。
「次っ」
「あ、はいっ」
結局、私は銀貨3枚を支払ってケイドンの街に入ることができた。
その金額が冒険者ギルドに登録するときに支払うのと同じくらいと聞いて、ギルドに登録した方がお得か? とちょっと思ってしまった。登録するつもりはないけど。
ピエランジェロ司祭の後をついて歩いていると、街の人達がこぞって司祭に挨拶にやってくる。それだけ、慕われていたのだろうけれど……なかなか先に進めない。
司祭も信者さんたちを無下にもできないようで、足が止まってしまうのだ。
「……マーク、マークはそのガラス工房の場所ってわかる?」
司祭の後ろに立っているマークに声をかける。村に来たばかりの頃はひょろりとしていたマークだったけれど、今では15歳とは思えないくらいがっしりした体つきになっている。
「わかります。先に行かれますか?」
「うん、スコル、メリー、どっちかが司祭様についててくれる?」
「ええ、では私がつきましょう、メリーはサツキ様に」
私たちの会話が聞こえたのか、司祭は申し訳なさそうな顔で小さく頷いた。





