第490話 温室を作ってみよう(2)
魔物素材。いったいどんな物がガラスの代用品になるんだろう。
私の頭に浮かんだのは、昔のファンタジーアニメ映画。大きな芋虫みたいな生き物の抜け殻が強化ガラスみたいだった記憶がある。
――もしかして、ここにもそんな生き物がいるの!?
ちょっと想像して、ゾッとする。
「……それって、どんな魔物なんです?」
「何種類かいます。ギヤンマやブラミマーダといった昆虫の魔物。これは羽や蛹の抜け殻が使えます。あとはグラススケールスという魚の魔物の鱗でしょうか」
「昆虫に魚……」
想像がつかない。そもそも、どれくらいの大きさなのか聞いてみたら、昆虫の魔物は小さくてもドワーフの身長くらい、魚の方は私の身長の倍くらいはあるという。
魚の鱗はどう考えても小さい気がするから、狙うなら昆虫の魔物だろう。
「ただ、この辺では見かけたことはないので、俺がガラス板を作るのと、魔物を狩ってくるのと、たいして時間は変わらないかもしれませんがね」
なんでも、ドワーフの国の南の方に生息する魔物らしく、その上、繁殖期が終わった頃なので、数がいないかもしれないらしい。
もしかしたら、グルターレ商会で取り扱っているかもしれないというのだが、彼らがいつ来るかわからない。
『さつきぃ、そんなのエイデンにたのめばいいじゃん』
『そうだ、そうだ』
『ノワールもよろこんでいくとおもうぞ?』
『とんでるまものをかるの、すきだからなー』
『ひがしのワイバーンどもが、こわがってやまからおりてこないらしいぞ?』
何やら物騒な話が聞こえた気がするが、とりあえずスルー。
確かに、エイデンだったらお願いすれば、狩ってきてくれそうではある。ノワールと一緒となったら、それこそ、絶滅させる勢いで(本当にやりそうで怖い)。
結局、ヨハンさんにもガラス作成を頼みつつ、魔物の素材もエイデンにお願いすることにした。
「なんだ、五月!」
精霊たちに呼んでもらったら、すぐ飛んできた。満面の笑みで。
「なるほど。ガラスの代用品に、ギヤンマとブラミマーダか。確かに、この辺りにはいないな」
エイデン曰く、ドワーフの南以外にも、似たような魔物がもっと南の方にいるらしい。南って川の向こうの荒地の先ということだろうか。
「任せろ。たくさん獲ってきてやるぞ」
簡単に請け負ってくれたエイデンは、本当にノワールをつれて飛んで行ってしまった。
……確かに彼だったら、山ほど狩ってきてくれそうだ(遠い目)。
素材を集めてもらっている間に、私は温室を設置する場所を確保しなくてはいけない。
しかし残念ながらログハウスの敷地は、温室を建てるような敷地の余裕はない。
他に平地となると、山裾のドッグランや水浴び場の並びが無難だろう、ということで、場所は水浴び場の隣にした(ちなみに、今の水浴び場は寒くなったので、水は抜いてある)。
「伐採、伐採っと」
温室用の敷地の準備のため、タブレット片手に『伐採』していく。
そんな私を見守るように、ホワイトウルフたちが数匹、日向ぼっこしながら寝そべっている。ドッグランがあるだろうに、と思うのだけれど、こっちの方が日当たりがいいのかもしれない。
後でドッグラン周辺も整えてあげようと思いながら、『伐採』しているうちに、気が付けばログハウスと同じくらいの広さで、綺麗に木がなくなっていた。





