第487話 ガーデンライト(1)
家の明かりといえば、獣脂を使ったランプが主流なのだそうだ。
実際、獣王国に村があった時は、村長であるネドリの屋敷ぐらいでしか、魔道具のランプを使っていなかったのだとか。
魔道具自体が大きな街まで行かないと手に入らないっていうのが、一番の理由。あとは値段と……魔石。
魔石なんて、すぐに手に入るんじゃ? と思ったのだけれど、話を聞くと、魔道具に使えるようなサイズの魔石が、ポンポン手に入る今の状況の方がおかしいらしい。
ウサギやネズミタイプの小さい魔物であれば、村や町など人が住んでいる近くでも狩れるけれど、取れる魔石はクズ魔石ばかり。ほとんど使い物にならないのだとか(私はアクセサリー用に使わせてもらってるけど)。
でも、うちの村の場合、ダンジョンが近くにあるのと、エイデンが狩ってくる魔物が……大物揃い。当然、魔石も大物が増えている。
肝心の魔道具のランプは、モリーナが村に住んでくれたおかげで、手に入りやすくはなったものの、やっぱり値段がそこそこするようだ。
「サツキ様の『がーでんらいと』、魔道具ではないんですよね」
「そうね」
モリーナは街灯っぽいソーラーガーデンライトの周りをウロウロしながら聞いてくる。
「魔石の交換も必要ないんだもんなぁ~、どうなってるんだろう……仕組みが気になる~」
こちらにも魔道具のランプがあるくらいだから、光らせる仕組みはあるんだろうけれど、そもそも電源の元となるソーラーパネルが作れるのか。
たとえ仕組みがわかっても、元になるソーラーパネルや電池が作れないんじゃどうにもならないと思うのだが。
「気になるな~、気になるな~」
チラッ、チラッと私を見てるモリーナに苦笑い。
さすがにこの街灯をいじらせる気はない。絶対、分解して壊しそうだもの。1個1万近い物をモリーナに分解させる気はない。
「モリーナ、黙れ」
「ひぃっ!」
エイデンの不機嫌な声で、びびるモリーナ。
――びびっていながらも、街灯への興味は消えないのよねぇ。
彼女の視線は、街灯と私を往復している。
「……はぁ。わかったわ」
「えっ!」
「これは、ダメ。この街灯は高かったんだから。ガーデンライトの仕組みが知りたいっていうんだったら、これでもいいでしょ」
そう言って私が『収納』から取り出したのは、ログハウスの敷地に設置していた足元を照らす小さいサイズのガーデンライト。
これはこの山に住んで最初に買ってきた物。黒いポールの部分や傘の表面が日焼けで色あせてきている。かなり安かった物なので、すぐにダメになるかと思っていたけれど、いまだに現役だった。街灯タイプのガーデンライトを挿すのと交換にしまっておいたのだ。
「よ、よろしいのですかっ!?」
「いいよ。でも、せっかくなら、同じようなガーデンライト、魔道具でも作ってよね」
「うぐっ!」
モリーナが作れるようになるんだったら、『売却』で貯めこんだこちらのお金を使ってしまいたいのだ。
「面白半分で分解するんだったら……エイデン?」
「ああ。……エルフ、覚悟しておけ」
「ひーっ!」
金色のドラゴンの目に変わったエイデンに睨まれて、モリーナは悲鳴をあげて逃げ出した。古いガーデンライトは私の手の中に残ったまま。
「忘れてるよっ!」
私の声がモリーナに届いたようで、猛ダッシュで戻ってきたのは言うまでもない。





