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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
何かと忙しい三度目の冬

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 <マリアンヌ>(1)

 帝国の学校の寮にたどりついたのは昨日の夜のことだった。

 朝早くに目が覚めたマリアンヌは、上半身を起こしてボーっとしながら、ここまで戻ってきたことを思い出していた。


 帝国の皇都近くの森まで、馬車ごと抱えて運んでくれたのは古龍の姿のエイデン。

 帰りは祖父のゲインズ・アルコは居らず、護衛として、狼獣人のケニーとラルルのみ。

 マリアンヌ自身、馬車ごと運ばれるのが2度目。1回目はエイデンの姿に驚いて気を失ってしまい、気が付いたら村についていたけれど、今回は、窓から眼下に見える風景を楽しむ余裕すらあった。

 森に着いた時、マリアンヌは馬無しの状態の馬車をどうするんだろう、と心配に思っていたのだが、エイデンが人の姿になると、森の中から2頭の立派な野生馬が現れ、そのまま馬車に繋がれたのには驚いた。

 そこから先は、ケニーが御者になり、皇都の学校まで送り届けてくれた。


 コンコンコンッ


『マリアンヌ、いる?』


 隣の部屋のクラスメイトのサーシャが声をかけてきた。

 マリアンヌは慌ててベッドから飛び降りる。


「いるわ! 今、起きたところよ」

『そう、よかったら、朝食を一緒にどうかと思って』

「わかったわ。少しだけ、待ってくれる?」

『1階のロビーで待ってるわ』


 マリアンヌは急いで顔を洗い、髪を整える。もさもさの髪を1本の太い三つ編みにして、五月からもらったヘアゴムを手にした。


『お守りのような物だから、普段使いしてくれると嬉しいわ』


 シンプルで温かみのあるフェルトボールの飾りは、マリアンヌの心をホッとさせる。

 煌びやかな髪飾りやリボンをしている女生徒たちが頭に浮かぶ。

 以前のマリアンヌだったら、ご令嬢たちを真似してもっと背伸びをしたゴージャスなリボンをしていただろう。


 ――貴族のご令嬢たちから、田舎臭いって言われそうだけど。


 ふと、村を離れる前日に、マリアンヌ自身で作ったミサンガをドレイクに渡すと同時に、ドレイクからプレゼントされた素敵なかんざしを思い出す。

 大きな魔石のついたかんざしは、さすがに学校生活には華美だし、ご令嬢たちから難癖をつけられそうなので、アクセサリーボックスにしまってある。

 最初のうちは、ドレイクとは一緒に祖父の手伝いをしたり、話を聞いたりしていたのだけれど、行動を共にしていくうちに、マリアンヌの中にほのかな恋心が芽生えていた。

 学校に戻る頃には、帝国の貴族の令息に夢中になっていたことが不思議に思うくらい、ドレイクのことで頭がいっぱいになっていた。


『気を付けて』


 見送りに来てくれたドレイクの左手首には、マリアンヌが作ったミサンガがあった。それに気付いて、マリアンヌは嬉しくて泣きそうになった。

 キュッとヘアゴムで髪を縛ると、視線はテーブルの上のホワイトウルフのマスコットに目がいく。掌サイズのまるっとした感じに、自然と笑みが浮かぶ。


『これ、結界の機能がついてるの。学校の寮だし、何もないかもだけど、念のためにね』


 村にいる間、五月の存在については、『神に愛されし者』だと村人たちから教えられた。普段の五月の様子には、そんなことは思いもしないけれど、あのエイデンの寵愛を一心に受けている様だけでも、十分だ。

 そんな五月の言葉を思い出し、スッと背筋が伸びる。

 マリアンヌの部屋は、裕福な平民や下級貴族の多いフロア。寮で盗難があったという話は聞いたことはないけれど、万が一ということもある。


「お留守番、お願いね」 


 制服に着替え終えると、マリアンヌはマスコットに声をかけ、部屋を出てサーシャの後を追った。


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