<ドレイク/アビー>
ドレイクは魔道具職人のモリーナの店の前に立っていた。
ウロウロと中に入るかどうか迷っていると、ドアが急に開いた。
「あっ」
ドアにはアクセサリー職人のアビーが、呆れた顔で立っている。いつまでも入ってこないドレイクに業を煮やしてドアを開けたのだ。
「……入ったら?」
「あ、はい、す、すみませんっ」
オドオドしながら店内に入る。
飾られている商品の多くはグルターレ商会で仕入れた魔道具で、モリーナが手がけた物もいくつか飾られている。
そして片隅に少しだけ、アビーが作ったアクセサリーがケースに入って並んでいる。
『ほら、あそこにあるぞ』
『はやく、はやく』
ドレイクの耳元で土の精霊たちが囁く。
――わかってるよっ。
言い返したい気持ちを抑えながら、ドレイクはアクセサリーの並んだケースの方へと向かう。
「……マリアンヌにプレゼント?」
「へっ!?」
いきなりアビーに声をかけられてびっくりする。
「だって、あんたたち、付き合ってるんでしょ?」
「つ、つきあって、ませんっ!」
プシューッという音が聞こえそうなくらい顔が真っ赤になるドレイク。
『まだだぞー』
『これから、こくはくするんだ』
『はやくしないと、まりあんぬはかえっちゃうんだ』
『がんばんないとなー』
エルフのアビーには、精霊たちがドレイクを揶揄っている様子が伝わってくるせいで、つい、ニヤニヤしてしまう。
しかし、ドレイクも覚悟を決めたのか、精霊たちの声を無視してケースの中を真剣に見つめる。
「あ、こ、これくださいっ」
ドレイクが直感で選んだのは、大きめの黄色い魔石を中心に、大きさの異なる乳白色や透明な石が縁を囲んだ銀色のかんざしだ。
ダークブラウンの髪をかんざしでまとめているマリアンヌの姿を想像して、ニヨニヨするドレイク。
「あら、いいのを選んだね」
アビーはケースから取り出し、ドレイクの手に渡して確認させる。
「この透明なのは水晶、乳白色のはヌーヴォと呼ばれる石でね。水晶は幸運を呼び寄せるし、ヌーヴォは恋人との愛を深める石なんだ」
「こ、こいっ、びとっ」
ドレイクが倒れるんじゃないかというくらい真っ赤になる。
――ちゃんとプレゼントできるのかしら?
アビーはドレイクの反応に心配になりながらも、ドレイクからかんざしを受け取ると、小さな白木の箱に入れて、濃いピンクのリボンで結ぶ。そして両手で箱を包むと、『きちんと、プレゼントが渡せますように』とエルフの古語を唱えた。
「はい。がんばって」
「え、あ、ありがとうございます……」
ドレイクはアビーに代金(銀貨8枚)を支払うと、大事そうに抱えながら店を出ていく。
『なぁ、エルフ、あれは、あんなにやすくないだろうー?』
ケースの中を整えていたアビーに、風の精霊が話しかける。
「ええ、そうね」
使っている魔石はBランクの魔物カイザルタイガーの魔石だし、かんざし本体は白金。ドレイクの支払いの3倍はくだらない。
「でも、応援したいじゃない?」
『おうえん?』
「だって、彼が幸せになったら、きっと、美味しいお酒ができそうだもの。違う?」
『ははは、そうだな! ヤツがしあわせになるなら、つちのもおおばんぶるまいするにちがいない!』
美味しい酒が好きなのは、ドワーフだけではない。
アビーは自分用のマジックバッグに、エルフの国から持ってきた秘蔵のワインを何本も保管していたりする。
――あれだけ土の精霊に好かれているんだもの。火酒のゲインズ以上の酒の作り手になるわ!
アビーは密かに期待しているのであった。





