第477話 年内最後の挨拶、マリンのお出迎え
すでに空は赤く、イワシ雲もオレンジ色に変わっている。
山ほどの買い物をした後、年内最後の挨拶と思って、キャンプ場の管理小屋に寄ってみた。
「こんにちは~」
時間帯のせいもあるのか、管理小屋の中には人の姿が見えない。
「こんにちは~?」
「あ、はいー」
事務所の方から出てきたのは、初めて見るバイトのお兄さん。
「お待たせしましたー。ご予約のお名前をー」
「あ、あの、稲荷さんはいらっしゃいませんか?」
「オーナーですか?」
バイトのお兄さん曰く、今日は地元の集まりがあるとかで出ているとか。ここには戻らず、そのまま帰宅するそうだ。
本当は、少しだけ猪肉とかのジビエを貰えたりしないかなぁ、と期待していたのだけれど、残念。
仕方がないので立ち寄ったことだけ伝えてもらうだけお願いして、早々にログハウスへと向かうべく、軽トラに乗り込んだ。
トンネルを抜ける頃には、日が落ちてしまっていた。
以前は車のライトだけで山道を走らなくてはならなかったけれど、今は等間隔に挿してあるガーデンライトの灯りのおかげで、山の中の運転もだいぶ楽になった。
『おかえり~』
『おかー』
その上精霊たちまで、お出迎えに来るから、余計に明るく見える。
……私だけかもしれないが。
彼らに見守られながら、無事にログハウスの敷地に入ると、駐車用の小屋の中へと軽トラを入れる。
「はー、着いた、着いたっと」
シートベルトを外すと、助手席に置いていた荷物の中から、肩掛けバッグを引っ張り出して、タブレットを見つける。
「まずは、ここの荷物から……『収納』っと」
するりと消えた荷物。タブレットを確認すると、品物ごとに分類されている。
さすがに完全に日が落ちたここで、荷物整理する気力はわかない。
運転席から飛び降りると、今度は軽トラの荷台へと向かう。
グリーンのカバーをはがすと、荷物が山盛りで現れる。
「はい、『収納』っと」
――ちゃんとした荷物整理は、明日にしよ。
夕飯は(『収納』に保存しておいた)おにぎりでいいかぁ、と思いながら、玄関のドアを開ける。
『おかえり~』
「ただいま~」
玄関脇に設置してある小さい人感ライト(電池式)で、部屋がぼんやりと明るくなる。
聖獣バスティーラのマリンが足元にすりよりながら、お出迎えしてくれた。完全にただの黒猫にしか見えない。
『今日、ハノエたちがお昼ごろに来たよ?』
「え、そうなの?」
マリンを腕に抱えながら、何か村であったのか、と心配になる。
『なんか、マリアンヌがどうとか言ってたけど』
「マリアンヌ? マリアンヌ……ああ、ゲインズさんのお孫さんね」
ほとんど接点がなかったので忘れてた。
村の中では孤児院の年長の女の子たちと一緒にいる姿も見かけたけれど、多くはドレイクくんについて歩いていた気がする。
確か、帝国の学校に通ってた子だ。冬休みでしばらくいるって話だった。
『明日にでもまた来るんじゃない?』
「そうね……マリン、ご飯はどうする?」
『ん~、まだ、ラサロってある?』
「さすがに食べきっちゃったわ。じゃあ、今日買ってきた鮭でも焼こうかしら」
『しゃけ?』
「そうよ。でも、その前に、暖炉に火を点けましょう。さすがに寒いわ」
マリンを床に下ろして、暖炉に向かう私なのであった。





