第471話 年内最後の買い出し ー髪を切るー
軽トラが軽快に道路を走っている。
平日の午前中のせいか、田舎道を走る車は多くはない。青空に鰯雲が浮かんでいる中、前方に見える遠い山の頂には、うっすらと雪がかかっている。今年は雪が降るのは少し早いようだ。
キャンプ場が休業になる前に、と年内最後の買い出しに向かっているのだ。
「うわ、もうクリスマスソング!?」
ショッピングモールに入った途端に聞こえてきたBGMに、びっくりする。
普段は、たまにスマホで音楽を聞くくらいなので、新鮮な気分ではある。
「もしかして、夜とかはライトアップとかしてるのかな」
田舎であろうとも、そこそこ大きなショッピングモールだからこそ、正面のエントランス前の広場でやっていそうだ(ちなみに、駐車場があるのは裏手になる)。
――うちはライトアップしなくても、精霊たちがビカビカだからなぁ。
その風景を思い出して、くすりと笑う。
特に精霊たちはご機嫌になると、これでもか、というくらいに光る。精霊たちが見えないガズゥたちにはわからないようだけれど、たまに、某アニメ映画のセリフ(『目が、目がぁぁぁ~』)を言いそうになる。
――そもそも、クリスマスなんていうイベントはこっちだけだしねぇ。
勝手に自分でイベントとして楽しんでしまえばいいんだろうけど、それはそれで一人で寂しいような気がしてしまう。
――エイデンだったら付き合ってくれるかもしれない。
チラリとそう思ってしまって、いやいやいや、と頭をふる。
黒いゴムで一つに縛った長く伸びた髪の毛先が、ぶるんっ、と頬にかかる。
「……あっ」
そういえば、前髪は自分で切っているものの、他は伸びっぱなし。しばらく美容室にもいっていない。ついつい、忙しくして、そんな余裕もなかった。
せっかくなので買い物前に髪を切ってもらおうか、と思い立ったら即行動。
壁に貼られたフロアガイドで美容室を探す。
予約もなしにすぐに入れるか不安だったけれど、早い時間だったのと、平日だったせいもあってか、すぐに入れたのはラッキーだった。
久々に人様に髪を洗ってもらったり、頭皮のマッサージしてもらったりと、贅沢気分を味わった。
勢いよくドライヤーで乾かしてもらいながら、こういうの、山の中では無理なのよねぇ、とつくづく思う。
「あっ」
「? 熱かったですか?」
「あ、いえ! 大丈夫です」
……ギャジー翁に、ドライヤーを作ってもらったら、とふと思いついたら、声が出てしまった。
現状、タオルドライの後は、ポータブル電源につないだ小型のドライヤーを使って乾かしていたのだけれど、なにぶん、時間がかかる(精霊たちは加減が微妙で怖すぎるので、お願いはしていない)。
「はい、いかがでしょう?」
女性の美容師さんの言葉で、正面に映る自分の姿を見る。
バッサリ切って、すっきり。山を買った頃と同じくらい短くなった。
最初、短くしてください、と言った時、美容師さんからは、こんなに綺麗な髪なのに、もったいない! と言われたけれど、短くして正解な気がする。
「ありがとうございます。凄くスッキリしました」
会計を済ませて、美容室を出る。
――頭、軽っ。
ご機嫌になった私は、フフフ―ン、フフフ―ン、と鼻歌を歌いながら、次の買い物へと向かうのであった。
* * * * *
五月が出ていった後の美容室での会話。
「随分とバッサリ切っちゃいましたね。さっきのお客さん」
「ねぇ? とっても艶のあるいい髪だったのに……毛先もほとんど傷んでなかったし」
「普段、何使ってるんでしょうね?」
「シャンプーとリンス、あとは椿油とか言ってたけど」
「へー、椿油ですか」
「え、椿油だけ?」
「そう。シャンプーとかも、そんな高い物じゃないみたいだし」
「じゃあ、あとは食生活を気を使ってるのかしら」
「そういえば、お客さんのお肌も綺麗でしたよね」
「そうそう、スッピンなんだって」
「えー! あれで!?」
……美容師たちの会話は、しばらく続く。





