第467話 美しい食器と、帝国情報
最近は、変化の魔道具を使って、ケイドンの街まで買い出しに行く村人がいるおかげで、日用品や食料に困ることは少ない。
それを察してなのか、ケイドンでは見ないような商品、エルフの国や獣王国、それに帝国産の品物が、荷馬車の前に置かれているそうだ。
特に獣王国特産品には、獣人たちも気になるのか、人だかりが出来ている。
残念ながら、私には違いはわからないので、単純に何か面白そうな物はないかな、と見て歩く。
そんな中、思わず立ち止まったのは、様々な食器が並んでいる場所。
「へぇ、これは随分と綺麗な食器ですね」
――ウ〇ッジウッドとか、マイ〇ンみたい。
私が知ってるような洋食器のブランドなんて、こんなもの。実際に買ったことはないけれど、食器売り場とかで見かけては、いいな、とは思う。結局は、日常使い出来そうな、無難な食器を選ぶのだけど。
そんな高級な洋食器を思い起こさせるような、綺麗な陶磁器の食器類に目が止まった。
ティーカップが4つに、大きなティーポット。大中小の皿が何枚か。白地に、綺麗な大きな花柄が描かれている。
他にもいくつかの食器類が並べられているが、このセットが際立って、美しい。
ふとこの村での食器類について思い浮かべる。
多く見かけるのは、木目そのままの木製の食器。そんな中でも、ハノエさんのところでは陶器の食器も使ってるのを見たことがあるけど、少しくすんだ色合いで、いたってシンプルなものだ。
それらに比べると、目の前に置かれている食器類は、随分と華奢でデザイン性のある物が多い。手に取ったティーカップなど、持ち手も細いし、縁も随分と薄い。
こっちにも、これだけの技術があるのか、と思わず感心する。
「それ、いいですよね」
「ええ。どちらで作られているのかしら」
「これは帝国の東の方の村で作られているんです」
「へぇ!」
あの帝国に、こんな技術のある場所があったとは。
悪い印象が先行するだけに、びっくり。
ただ、これだけ繊細な物なので、量を多くは作れないそうで、それだけ高価な物なのだとか。お値段を聞いて、空笑いが出る。
「一応、大本となる窯元は先祖代々、皇帝一族御用達と言われているそうなんです」
おお、凄いな、と思って感心していると、売り子のエルフの男性がこっそりと声を潜めて教えてくれた。
「ただ、最近、支払いが滞っているらしいんです」
毎年のように新しい食器の注文が入っていたのに、今年はその量が激減した上に、未払いが増えて、資金繰りが厳しいらしい。
本来なら貴族以外には出さない食器類を、グルターレ商会に卸すことになったのも、そのためらしい。
「へぇ」
貴族も大変ねぇ、なんて思ったら。
「なんでも、あちこちで城壁やお屋敷の一部が壊れたり、例年なら獲れる魔物が激減しているそうなんです。おかげで、余計な支出が増えて、収入が減ったものだから、贅沢品へ回す余裕がないんだとか」
――それって、地味にエイデンとか、エイデンとか、エイデンとか、たまに精霊とかが、やらかしてるせいだったりして。
そう思ったら、背中に冷や汗がたらりと垂れた気がした。
「そ、そうなんですね」
「ええ、実際、帝国のこの食器のセットなど、各国の上位貴族に贈答品としてよく使われていたそうです。すでに何セットか、売れてしまって、残っているのはこれだけなんですよ」
ニコニコしながら、どうですか? と勧められたけど、値段も値段だし、そもそもログハウスで使うには上等すぎたので、断ってしまった。
ちょっとだけ妙な罪悪感を感じつつ、私はとりあえず、別の荷馬車の方へと向かうことにした。





