第464話 バカラモのお菓子
昼間でも空気がひんやりするようになった。
ログハウスの周辺は木々に囲まれているせいもあって、冷たい風が吹き込むわけではないが、日陰に入ってしまうと寒く感じるようになった。
「五月様!」
「こんにちは~」
「皆で大量に作ったので、お裾分けです~!」
ハノエさんたちママ軍団が賑やかな声をあげながら、ログハウスの敷地までやってきた。
私はジーパンに厚手のパーカーにネルシャツ、その下にはヒー〇テックと、厚着になっているのに、彼女たちはワンピースに薄手のカーディガンという、まるで春先ですか、と言いたくなるような格好でやってきた。獣人の身体、さすがである。
なんのお裾分けかと思ったら、ママ軍団がバカラモで作ったお菓子を持ってきたのだという。しかし、三人とも身軽な様子で何も手にしていない。
とりあえず、東屋の方へと案内をすると、ハノエさんのウエストポーチから、丸いお餅のようなものがたくさん載った皿がいくつも出てきて、テーブルの上に並べられていく。
「そのウエストポーチ」
「ああ、これ、モリーナさんのところで売り始めたんです。マジックバッグ」
嬉しそうに、腰に下げているウエストポーチをポンポンっと軽く叩く。素材はレッドフォーンデアの皮だそうだ。いわゆる鹿皮だ。レッドというだけに赤味帯びた皮で、きっと使い込んだらいい艶が出てきそう。
「ネドリのように、大量でも時間停止の機能などもついてないんですけどね」
それでも、だいぶお高いモノなんじゃないのだろうか、と思ったら、素材や魔石を提供したので、だいぶお安くしてもらえたらしい。
私は、モリーナがちゃんと魔道具師として仕事してたんだ、ということに感心した。今度、私も店のほうも見に行ってみようか……いや、下手にいくと、色々聞かれそうだ。
テーブルに置かれている大きめな皿に載っているのは、丸いお餅みたい。両面が焼かれているせいか、香ばしいいい匂いがする。
さっそく1個、つまんでみる。思ったよりも、硬い。しかし、噛んでみると表面はサクッとしていて……。
「ん、中はもちもちしてて美味しい」
「よかったわ!」
「よかった!」
テオママとマルママの嬉しそうな声が揃って聞こえる。
「いつも五月様からいただくお菓子が美味しいものだから、気に入っていただけるか、心配だったんですけど」
「いえいえ、美味しいですって」
これに似たようなお菓子を食べたことがある。確か、芋餅だ。
私が食べたときはもっと柔らかくて醤油ダレがかかっていたけれど、今回のこれはタレはなくて、バターがたっぷり使われていて、その塩味がいい塩梅だ。
名前はなんというのか聞いたんだけど、特になくって『バカラモのお菓子』としか言わないらしい。さすが、狼獣人。大雑把だ。
バターを使っていても、なんだか和菓子っぽい。
「ん~、これは緑茶かなぁ」
私は『収納』からお茶の入ったポットを取り出して、ハノエさんたちにもマグカップにいれて渡してあげる。
お茶にマグカップ、日本人的にはイマイチだけど、よしとしよう。
「これは?」
「あ、あれ。ハノエさんたちは初めてだっけ?」
「ええ」
お酒とかは散々差し入れしてたけど、お茶はなかったか。
クンクンと匂いを嗅いでいるけれど、ハーブティーではないので、お茶自体にはそんなに匂いはないんだけど……獣人には違うのだろうか。
「熱いから気を付けて」
そう言いながら、私もフーフーと息を吹きかけ、お茶を飲む。
「ふぅ……」
なんとも、ホッとするのは、やっぱり日本人だからだろうか。
「うん……私たちがいれる薬草茶とは、違いますね」
「雑味がない?」
「色もきれいね」
獣人の飲む薬草茶を思い出して、あはは、と空笑い。
オババから貰って飲んだのだけれど、あれは私には青汁の……美味しくないヤツにしか思えなかったんだよなぁ、とあの苦さを思い出して、うげっとなったのであった。





