<コリンナ>
コリンナが村を出たのは13歳の時。幼馴染のガンズの後を追いかけて、冒険者になるつもりでいた。しかし、現実はそれほど甘くはない。
ケセラノの町を拠点に活動しているパーティに加わったのは冒険者ランクがEランクになった時だった。
「コリンナ、お前には冒険者は向いてないよ」
16歳になり、冒険者ランクがDに上がりそうになった時、当時パーティを組んでいたリーダーから、残念そうに言われてしまった。
「攻撃力があるわけでもないし、魔法も使えない。斥候役が出来ればマシだったけど、出来てせいぜい、荷物持ちだろう。俺たちはもっと上を目指したいんだ。コリンナ、君を守りながら戦うなんて無理なんだ」
リーダーの言葉に項垂れたコリンナの視野に、嗤っているメンバーたちがいた。彼らはすでにDランクで、Cランク目前のメンバーもいたのだ。
彼のいう通り、コリンナは狼獣人の割に、身体能力がそれほど高くはない。それは、亡くなった母が犬獣人だったからだ。
――足手まといの自分がいるから。
悔しかったけれど、彼らの言葉は事実なので、反論できなかったコリンナは、パーティから抜けた。
彼らは王都のほうへと拠点を移し、コリンナはそのままケセラノの冒険者ギルドの事務員として働き始めた。
ギルドで働き始めて7年。多くの女性事務員が結婚して辞めていく中、コリンナはずっと仕事を続けていた。
ケセラノは魔の森が近いこともあり、多くの冒険者が活動している。ガンズもこの街に何度か来たことがあったが、ちょっとだけ話が出来ればいいくらいだった。
それでも、ここにいればまた、ガンズにまた会えるという思いで、ギルドの仕事を辞める気にはならなかった。
「コリンナ、あなたにお客様よ」
事務所の入り口から、受付の女性が顔を出して声をかけてきた。
――私なんかに、誰が?
事務所から出ていくと、そこにはコリンナと同じ村出身のケニーとラルルが息を切らせて立っていた。
彼らとは小さい頃、村で面倒を見てあげたことがあった。それに何度か冒険者ギルドに来ていたので、顔は知っている。
「ケニー、何かあったの」
村がスタンピードに巻き込まれたという話は知っていた。しかし、父親が無事だというのも、移住した先があることも知ってはいたが、その場所までは知らなかった。
ただケニーの必死な形相に、もしかして父親に何かあったのでは、と心配になった。
「コリンナさん、ガンズ兄さんが倒れた」
「えっ」
「今は、スコルおじさんの家にいるんだけど……お願いだ、一緒に村に来てくれないか」
あの頑丈そうなガンズが倒れた。
そのことだけで、コリンナの頭は真っ白になる。
「詳しいことは、村に戻りながら話したい。早く戻りたいんだ」
「わ、わかったわ」
コリンナはすぐに事務所に戻り、後片付けをすると、事務方のとりまとめをしているキャシーに、実家に戻らなくてはならなくなったことを伝えると、すぐにケニーたちのところへと戻った。
無責任かもしれないが、このままギルドを辞めてしまおうと思った。
いつも若手の女の子たちから、こそこそ、悪口を言われていることを知っていたから。
コリンナにとっては、これはいい機会だったのだ。
町を出入りする門を抜け、しばらくすると、ホワイトウルフたちが現れ、そのうちの1頭がコリンナの目の前へ歩いてきた。
「ひっ」
慌てて、ケニーの背後に隠れたコリンナだったが、ホワイトウルフ(ハク)はコリンナの目の前で伏せをして、背中に乗るように促している。
「大丈夫です。ハク様は上手に載せてくださいます」
「え、まさか」
「はい、彼らに乗って村に戻ります」
「え、えぇぇぇっ!?」
コリンナの受難は、まだ続くのであった。
ちなみに、コリンナとララは、犬獣人の血筋のほうで、すごーく遠い親戚関係にあります。
本当に、うっすらです。





