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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
冬ごもりに向けた晩秋の過ごし方

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第456話 『魅了』

 翌日、昼近くになってガンズは目を覚ました。

 ララに殺されそうになったことがよっぽどショックだったのか、あるいはララに捨てられたことがショックだったのか、ネドリが声をかけても、目の前で手を振ってみても、何の反応もない。

 仕方なく、軽トラの荷台に横たえて村に戻ってきた。村人たちはガンズの様子に心を痛め、ララに対して、というか帝国に対しての怒りで村の雰囲気が悪くなってしまった。


「……俺がララなんか紹介したもんだから」


 ケニーが真っ青な顔で呟く。

 ララとの出会いは、なんとケニーたちの方が先だったらしい。最初は、合同で大型魔獣の討伐に参加した時にララと一緒になったのだとか。討伐後、ララがケニーに付きまとうまではいかないまでも、ちょっかいを出してたところで、たまたま別の依頼先でガンズと再会したのだとか。

 そこであっさりガンズに乗り換えるララに、ケニーは少しホッとしてしまったらしい。それに対する罪悪感なのかもしれない。

 村人たちはケニーのせいではない、と慰めているけれど、ケニー本人にしたら気に病んでしまうのも仕方がないのかもしれない。

 ガンズの身体自体は問題ない状態なのだが、心の方が追いつかない感じ。

 これはしばらく様子を見るしかないだろう。




 そんな暗い雰囲気の村の一方で、明るい話題も聞こえてきた。

 なんと、あのマリアンヌちゃんが、ドレイクと距離を縮めようとしているのだという。

 この前の女子会で、散々、帝国の子爵の坊ちゃんの話題で盛り上がっていたのに、どうしたことだ。


「ドレイク、お手伝いするわ」

「え、いや、あのっ」


 ガンズの様子を見に村にやってきたら、マリアンヌちゃん、ドレイクの後をついて回っている。

 その姿を実際に目にした私もびっくりだ。

 ドレイクの方もまんざらでもないのか、きっぱり拒絶するでもない。火酒造りの一族の先代当主の孫なのだから、邪険にもできないだろうけど、かなり顔が赤い。


「……どうしたっていうの」

「いや、私たちもよくわかんないのよ」


 そう答えたのは、洗濯物を抱えたハノエさん。ちょうど洗濯機から取り出して、干しに行くところで遭遇したのだ。


「ベシーたちから、お貴族様の彼氏がいるって聞いてたんだけどねぇ」

「そうそう、大好きオーラが凄いって」

「私もそう聞いてたんですけど……」


 『女心と秋の空』って言っても、ここまでコロッと変わるものか? そんな簡単に心変わりするような子には見えなかったんだけど。


『どくそがぬけきったんだよ』


 こそっと水の精霊が私の耳元で囁いた。


「はぁっ!?」

「え、いきなり、どうしたんです!?」

「あ、いや、ちょっと」


 精霊の爆弾発言に、思わず声をあげてしまった。


「毒素って何!」

『みりょうのどくそがたまってたんだよ』

「『みりょう』って……もしかして、『魅了』ってこと!?」

 

 私がワタワタしている様子に、ハノエさんも何か察したのか、黙って様子をみてくれている。


『たちがわるいよねー』

『がんずもにたようなのが、いっぱいたまってたけど』

「ガンズもですって……え、まさか、今の状況ってその『魅了』が解けた反動みたいなもの?」

『どうだろう? わかんないー』

『まりあんぬは、うめしろっぷ、がばがばのんでたからねー』

『がばがばー』

『ばんのうやくだからねー、さつきのうめしろっぷ』


 キャッキャウフフと、いつものように楽しそうな精霊たち。

 ……万能薬って言うけど、普通に飲んでるぞ。私たち。

 いや、でも、それでマリアンヌちゃんの『魅了』が解けたのならいいんだろう。

 それにしても、帝国の連中は、何がしたいのだ。


「あ、ドレイク、待って!」


 元気なマリアンヌちゃんの声。


 ――むしろ、今の状況の方がドレイクに『魅了』されてるんじゃないの?


 そう思いながら、2人の後姿を見送る私なのであった。


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