第452話 女子は恋バナが大好物(2)
反対されればされるほど、本人の恋心は燃え上がるっていうのが、恋の定番。
しかし、周囲の者からしたら、現実を見ろ~! と言いたくなるのも道理。
けしてマリアンヌちゃんが可愛くないわけではない。むしろ、十分に可愛い。
きゅるんとした大きな瞳に、緩やかにウェーブした濃茶色した髪。これ、両サイドでお団子にして大きな耳みたいにしたら……まるで、ロシアのアニメ、チェブラーなんとかとかいうキャラクターみたい。
人族のようなスラリとした体型ではないけれど、ふんわりとした体型は、むしろ抱きしめたい。
……その子爵のお坊ちゃんが、そっちをお好みなのだとしたら、人の好みはなんとも言えない。ただ、ロリコン系の心配はあるけど……マリアンヌちゃんの場合だったら、合法ロリになるのか?
――いやいや、そういう問題ではなく。
問題は、そのお相手のお貴族様が、果たしてどこまで本気なのか。
そう思うのは私だけではなく、心配そうな眼差しを向けているのは、年長のベシー。
「……貴族ってだけでも大変そうだけど」
先日やってきたキャサリンたちのことを覚えているだけに、そんな言葉が出てくるんだろう。
村にいる間は、簡素なワンピースのような物を着ていたキャサリンたちだったけれど、村から帰る時は、豪奢なドレスに着替えていたし、そのドレスにあわせてしゃなりしゃなりと歩いていた。
万が一にも、あんな格好をする予定はないけれど、私には無理だわー、と思ったのだ。
「確かに、私たち平民とは違って、色んなしきたりとかあるのは、学園に通っていればわかるわ。でも、彼の為だったら、私、頑張れると思うの」
……あー。もう重症なんじゃない?
マリアンヌちゃんが言うように、その子爵家の坊ちゃんがいい人だったらいいけど、ハンネスさんの妹さんの所のように、家族に虐げられたりする可能性だってある。大丈夫、なんだろうか。
「そっかー。そんなに好きなのね」
「ええ!」
それからは、子爵のお坊ちゃんの惚気話を延々と聞かされるはめになった。
よっぽど誰かに聞いて欲しかったんだろう。なんでも、休みに入ったので実家に戻ってきたのに、すぐさまゲインズさんに捕まって連れてこられたらしく、誰にも子爵のお坊ちゃんの話を聞いてもらえなかったらしい。
「そんなに好きだって言うんだもの、頑張って、ってしか言えないわ」
「そうね。そんなに大好きな人がいるだけ、羨ましいわ」
「私たちの周りには……ねぇ?」
ねぇ、って何!?
孤児院の男の子たちだって、十分カッコいい子たちがいるよ!
そう言いたいが、あの世代の女の子たちにとっては、身近にいる子ほど、恋愛対象に見えないのかもしれない。……灯台下暗し。
女の子たちは応援する方向にいってしまったが、これで本当にいいんだろうか。
――様子を見るしかないなぁ。
苦笑いしながら、そんなことを思っていたら、火の粉が私に降ってきた。
「それより! サツキ様は?」
「そうですよ! やっとエイデン様がお戻りになられたんですもの!」
「は?」
「エイデン様、カッコいいよねー」
「ねー!」
……この子たちは、古龍の姿を見ているのに、普通にカッコいい、と言ってくる。
いや、確かに、人の姿の時のエイデンは、モデル並みにカッコいいとは思うけど、中身が残念というか。
「確かに、エイデン様はカッコいいです」
まさかのマリアンヌちゃん発言。
「ご結婚はされないのですか?」
「するわけないでしょーっ!」
「えー?」
マリアンヌちゃん、きゅるんとした瞳で見上げて来ないでっ!





