第450話 祖父と孫娘
ドワーフの家である穴倉が並ぶエイデンの山裾。その並びに、一際大きなドアのある穴倉が、ドワーフの国からやってきたゲインズ・アルコ氏の家になる。
このドアだったら長身のエイデンやネドリでも頭を屈めずに入れそうだ。
今回、私は一切手伝ってない。それだけに、ドワーフたちの必死さが伝わってくる。
一番北側に作った新しい穴倉なので、前には桜並木が並んでいる。春は見ごたえのある場所になるに違いない。
「ヘンリック、随分と気張ったな」
「いえいえ、ゲインズ様が来て下さるのに、わしらのような手狭な穴倉というわけにもいきませんよ」
「ワハハハ、わしとお前の仲ではないか。気にすることもなかったのに」
ゲインズさんは、バンバンとヘンリックさんの背中を叩きまくってる。痛くないの? と思うんだけど、彼の余裕の表情からも大丈夫なんだろう。
無事に村にやってきたゲインズ・アルコ氏と孫娘のマリアンヌさん。一通り村の中を案内した後、ヘンリックさんたちが用意した家を紹介していたわけ。私もちゃんと見せてもらうのは初めて。
ヘンリックさんたちの家の中までちゃんと見たことがなかったので、今回、ドワーフの家、初潜入なのだ。
ちなみに『土の精霊王』は他の精霊たちと一緒に山の方に飛んでいっている。
ドレイクくんは精霊の声が聞こえるせいで、馬車の中での移動中、『土の精霊王』に声をかけられまくったらしい。さすがに相手が『土の精霊王』だとは知らなくて、なんか声の圧が強いのが乗ってる、とは思ってたらしい。『土の精霊王』だったのを教えてあげたら、白目をむいて倒れてしまった。
……お疲れ様。
入ってみると、うすぼんやりとした灯りがあちこちに設置されていて、部屋の中は居心地が良さそうな雰囲気。けっこう立派な敷物が敷かれてるし。これ、この前、グルターレ商会が来た時にでも買ったんだろうか。
「おお、いい家具まで用意してくれたのか。うん? もしや、これは、エトムントか!」
「ハハハ、よくお分かりで!」
「分かるとも! なぁ、マリアンヌ! 見てごらん」
「……」
ゲインズさんは、私の背後、ドアの傍に立っていた. 彼の孫娘、マリアンヌちゃんに声をかけた。
マリアンヌちゃんは学校のお休み期間ということで、今回一緒に連れてきたらしい。
まだ15歳だとかで、孤児院のマークくんやベシ―ちゃん、獣人の子で言えば冒険者のナードくんとメンレちゃんたちと同い年。ドワーフという種族の特性で女性は、かなり背が低くて、15歳には見えない。つい、頭をなでなでしたくなる。
しかし、彼女の様子を見ると、かなり不機嫌そう。もしかして、無理やり連れてこられたのか? プイッと顔をそむけて、返事もしない。
もしや、馬車の中でもこんな空気だったとしたら、ドレイクくん、『土の精霊王』以上に気を使ったんじゃなかろうか。
おじさんドワーフたちは盛り上がってるけれど、どう見てもマリアンヌちゃんは楽しそうじゃないもんなぁ。
「あー、ヘンリックさん、よかったらマリアンヌちゃんと一緒に外に出ていていいかしら」
「は、はいっ。ゲインズ様、よろしければ、他にもお見せしたい物もありますから」
「あ、ああ。そうか。サツキ殿、すまんが、孫を任せてもよろしいか」
「はい。じゃあ、ちょっと外、行こうか」
私の声に、コクリと頷くと、私の後をついて穴倉から出てきた。
うーん、これからどうしよう?





