第449話 エイデンたちの帰還
エイデンたちが戻ってくる。
事前に精霊たちが教えてくれていたので、彼らを出迎えに村に向かった。スーパーカブの轟音も2度目なので、ボドルさんたちは出ては来ない。
『きたきた~』
『おや~、なんかおおきなせいれいもついてきてないか~?』
『つちの~、ありゃぁ、おまえさんのところの~』
『……おうさま、なんでくるかな』
……最後、なんか不穏な声が聞こえた気がするんだけど。
そんなことよりも、村の上空に浮かぶ、大きな黒いドラゴンに村人たちの視線が集中している。何度見ても、なかなかの迫力だ。
「な、なんだ、あれはっ!」
「ド、ドラゴンだとっ!」
古龍の姿のエイデンが、大きめな馬車を掴んで降りてきたのを見て、ボドルさんたちが叫ぶ。
誰もエイデンの説明してないようで、自分たちの武器を手に、戦う気満々でエイデンを睨みつけている姿に、ちょっと感動。
『なんだ、このちびっこいのは』
全然、ちびっこくなんかないです。
村の中央に馬車を音もなく下ろしたエイデンが、黄金色の目でボドルさんたちを睨みつける。
「しゃ、しゃべった……」
「こらっ、エイデン様に剣を向けるなっ!」
ハノエさんが兄たちの頭を軽く叩いたように見えたんだけど……2人とも吹っ飛んでった。もしかしてハノエさん、ボドルさんたちより強いんじゃ……。
「つ、着いたのかっ」
そう声をあげて降りてきたのは、立派な太鼓腹の老年のドワーフ。その後を、顔色が真っ青のドワーフの女の子がよろよろと降りてきた。
最後に降りてきたのは真っ白い顔色のドレイクくんに……あー、あれか。精霊たちが言っていたのは。
村の中を飛び回る精霊たちが小人に思える。まるっきり、人族と同じサイズのキラキラした精霊が降りてきた。あれが『精霊王』か。私と目があったとたん、ニッコリと笑みを浮かべてる。なんか、怖いんですけどっ。
「五月っ!」
『精霊王』にびっくりしていた私に向かって、いつの間にか人の姿になったエイデンが猛ダッシュでやってきた。
グワッと両腕を広げて抱きつこうとしたので、手を差し出して「止まって!」と言ったら、ビタッと止まった……ちょっと面白い。
「はい、お帰りなさい……ところでネドリは?」
そうなのだ。馬車から降りてきたのは『精霊王』をのぞいて3人。ネドリがいない。
「ネドリは途中で降りた」
「は? なんで?」
「うん? なんか用事ができたようだぞ?」
止まった格好のまま、首を傾げるエイデン。全然、可愛くないからね?
* * * * *
ネドリは獣王国の魔の森の中を歩いていた。
すでに日は落ちていたものの、ネドリの足は止まらない。彼にはエイデンに任された仕事があるからだ。
ことの始まりは、ドワーフの国から村へと戻る旅の途中、帝国と獣王国の国境近くの森で野営をした朝のこと。
精霊から渡されたというメモを、エイデンから見せられ、血の気がひいた。
話を聞いてみると、村にやってきた狼獣人の女が帝国の貴族と繋がっていて、村のことを探りに来ていたということ。それも、村の若者を篭絡してとのこと。その若者が、ネドリとも行動を共にしたことがあり、友人でもあるスコルとメリーの息子のガンズだと知って、カッとなった。
ネドリの知っているガンズは、朴訥とした純情な若者だったのだ。
そのガンズが狼獣人の女とともに村を出た。向かう先はきっと帝国に違いない。
「……五月の穏やかな生活を邪魔する者は許さない」
「はっ」
エイデンの言葉に、身が引き締まる。
ネドリも、友人の息子であっても、村を、五月を裏切るようであれば容赦はしない。
焚火の火に照らされた男女の姿。
男の方には、ネドリの記憶にある、幼い頃のガンズの面影が残っている。
――いた。
真っ暗な森の中、ネドリの金色の瞳が月明かりに反射して光った。





