第448話 ララ対策(不発)
ララさんのことが確認できたこともあって、私はハノエさんと一緒に、立ち枯れの拠点に向かうことにした。
さすがに彼女の正体を自分の心の中だけでしまっておけるわけもなく、ハノエさんに相談したかったのだ。信じてもらえるかなぁ、と少し心配したけれど、疑うことなく、むしろやっぱり、みたいな感じ。
東屋で紅茶を飲みながら、ハノエさんの話を聞く。
「帝国の貴族っていうのはわかりませんでしたけど、犬獣人とのハーフっていうのには納得です」
「え、何で?」
「ニオイが違うんですよ」
狼獣人には狼獣人特有のニオイというのがあるらしい。しかし、ララさんは狼獣人にしてはニオイが薄かったそうだ。残念ながら、私にはまったくわからない。
「そういえば、帝国は王国よりも獣人に寛容なの?」
私の聞く限り、人族の獣人への反応はあまり好ましいものではない。
そのために、ケイドンの街に行くための変化の魔道具まで用意したのだもの。
「……どうでしょう。そういった話は聞いたことはありません。彼女がどういった経緯で帝国の貴族の養女になったのかはわかりませんが。『養女』という名の『奴隷』という可能性もないとは言えませんから」
oh……。
もしそうだったとしたら、それはそれでお気の毒かもしれないけれど、だとしたら、なぜ彼女がここにいるのか。
「スコルとメリーに挨拶に来ただけ、というだけではなさそうですけどね」
「あー」
ガンズさんは結婚したいんだろうけれど、ララさんのあの様子では、期待薄だろう。村の女性たちに馴染もうとする様子もなく、ガンズにべったりか、彼がいない時はケニーにすり寄ろうとしている(ケニーは相手にもしてない)。
彼女が帝国の関係者じゃなかったら、ただの尻軽ちゃんで済んだんだけど、身元が分かれば、もしかしてハニートラップってヤツなんじゃ、っていう気がしてくる。
「ララの動き、皆で注意して見ておきますね」
「お願いします」
なんか嫌な感じだわー、と思いつつ、最後の紅茶を飲み干した。
しかし、様子を見る間もなく、翌日にはララさんとガンズさんは、村を出ていくことになった。
理由は『ララがホワイトウルフを怖がってるから』。
はい? となったのは言うまでもない。
獣人の村人たちはもちろん、孤児院の子供たちですら一緒になって遊ぶような相手なのに、である。
むしろ、どこに怖がる要素が? である。
ガンズさんが惚れ込んじゃってるせいで、完全にララさんの言いなりだ。
スコルとメリーが、ボドルさんたちの結婚式まで待つように言ったんだけれど、ネドリたちが戻るのがいつかもわからないから、と、さっさと村から出て行ってしまった。
私がそれを知ったのは、彼らが出て行った後だった。
* * * * *
ララたちが村を出る前の夜。
彼女はこっそり家の外に出ると、3回目の伝達の魔法陣の書かれた紙を、義父であるゴードル子爵へと飛ばした。
1回目は『神に愛されし者の村の場所』、2回目は『村の規模や結界について』、そして今回3回目は『村の異常性』。
義父から持たされた伝達の魔法陣の書かれた紙は、大きいものではないので、書ける内容は多くはない。それでも、義父のために出来る限りの内容を送らねばならない。
ゴードル子爵家は、帝国の暗部の末端貴族。その義父の期待に沿うのがララの望みだからだ。
――フフフ、お義父様が喜ぶ顔が楽しみだわ。
犬獣人の実母は、娼家から引き抜かれたゴードル子爵の愛人だった。それはララが小さかった頃のこと。母とは離されて育てられたせいで、思い出はほとんどない。
――明日は、さっさとこの村から出ていかなきゃね。ケニーを堕とせなかったのは残念だけど。
自分の容姿にそこそこの自信があっただけに、それだけが悔しかった。筋肉ムキムキなガンズよりも細マッチョなケニーの方が好みだったのだ。
――村のことを知っているケニーを連れて帰れたらよかったけど、仕方がない。
フンッと鼻を鳴らしたララは、家の中へと戻っていく。
* * * * *
『はい、キャッチ―!』
『こりないねー』
『3かいめー』
『ばかだからー?』
『また、エイデンにおくっとけばー?』
『あしたにはかえってくるだろー?』
『けしちゃえばいいのにさー』
『さつきがダメっていってるじゃーん』
『しらなきゃ、わかんないじゃーん?』
『まぁ、まぁ。エイデンにまかせとけば、なんとかしてくれるだろー?』
『まーねー』(全員)
精霊たちの賑やかな声が、村の中で響いている。
しかし、それを聞き取れる者は……今はいない。





