第445話 パートナー(3)
賑やかだった宴も、子供たちがいなくなると、雰囲気も徐々に落ち着いてくる。
私も、そろそろログハウスに戻ろうかと、腰をあげた時、チラリと視界に入った二人に、ムッと眉間に皺を寄せる。
「ケニーと……あれは、ララさん?」
ララさんは、ガンズさん(25歳)のパートナー。
年齢はネシアさんやケニーたちと同い年の18歳。同じ狼獣人の冒険者のわりに小柄なせいか、リリスさんやケイトさんのように強そうには見えなかったし、終始、オドオドした感じがしていた。
それは所謂、『守ってやりたい』とかいう庇護欲をそそらせるものなのかも?
狼獣人にはないイメージだけど。
ちょっと年が離れていると感じるものの、ネドリとハノエさんや、ボドル・コントル兄弟のこともあって、そういうもんなのだろう。
そのララさんが、ケニーの腕を引っ張って、宴の場からどこかに行こうとしている。
その様子は、ちょっとララさんの方が強引に見える。先程までのオドオドした雰囲気など、どこかにいってしまったみたい。
「あの二人、どういう関係?」
ぼそりと呟くと、ふわりと一人の風の精霊が現れた。
『ようすをみてこようか?』
「え」
『きになるんだろう?』
「あー」
そりゃぁ、気になる。何せ、ララさんが精霊指定要注意人物なのだから。
その相手にケニーが絡まれているように、私には見える。
「ケニーが困ってるようだったら、助けてあげてくれる?」
『おう、まかせろ!』
そう言って、ヒュンッと消えた。
ファンタジーなこの状況、いまだに慣れない。
「さて、ラルルの方はどうしたんだろう」
ケニーの相棒といえば、従妹のラルルなのだけれど、彼女はケニーのパートナーではないらしい。兄妹みたいな関係なんだろう。
村の中央の方へ目を向けると、いまだに残っているのは、ドワーフたちと獣人の中でもおじさんたちだけだ。
「ラルルは?」
「うん? もう家に帰ったぞ?」
「ああ、ドンドンが襟首掴んで、連れてったな」
「あそこまで酔っぱらってれば、仕方ねぇべ」
どんだけ飲んだのよ、ラルル!
「あはは、じゃあ、ガンズさんは?」
「ガンズ? あいつは、ほら、あそこで酔いつぶれてるぞ」
「……あー」
地面に大の字になって寝ている……大丈夫なのか、あれ。
一方、両親であるスコル・メリー夫婦は、村人たちとまだまだ元気に飲んでいるようだけど、ララさんがいないことには気付いていないようだ。
なるほど。その隙にララさんが、ケニーにちょっかいをかけたってことなんだろうか。
「キャッ」
女の人の声が聞こえた。方向からして、ララさんだろう。
精霊がやらかしたのでは、と焦って声のした方へと目を向けると、尻もちをついて驚いた顔をしたララさんがいる。
ケニーは? と探してみると、建物の影にいたのか、同じように驚いた顔でララさんに駆け寄っている。
「なんだ」
「どうした、どうした」
「大丈夫?」
他の獣人たちとともに、私は二人に声をかけながら近寄った。
「だ、大丈夫です」
慌てて立ち上がって、パタパタとお尻の汚れを叩くララさんを横目に、ケニーに目を向けると、彼もよくわかっていない感じ。
「いやぁ、ララに言われて石壁の様子を見に行ったんですよ」
「石壁?」
「ええ、なんか変な大きな足跡があるっていうんで」
大きな足跡なんて、ビャクヤたちのかしら? ノワールの足跡って可能性もないとはいえないけど、村の住人だったら疑問にも感じなかっただろう。
そういえば、ボドルさんたち初めましてメンバーに、ビャクヤたちのことは説明してなかったのを思い出す。
「大したことはないと思ったんですけどね。ララが気になるというんで」
ケニーもたぶん同じことを考えたのだろう。肩をすくめながら、そう答えた。
「俺が確認しようと前に出たら、ララがいきなり後ろで倒れて声をあげたもんだから、びっくりして」
ララさんに目を向けると、オドオドした雰囲気に変わってる。
「な、なんか、いきなり誰かに肩を引かれたんですっ」
「誰もいないぞ?」
「で、でも、本当なのっ」
――絶対、風の精霊でしょ。
ということは、ララがケニーに何か仕掛けようとしたのかな。
だって、精霊たちが……お尻ぺんぺんとかしてるんだもの。
くっ、わ、笑わそうとするの、やめて!





