第444話 パートナー(2)
ドッと笑い声があがったので、そちらの方へ目を向けると、若手冒険者たちの周りに、ガズゥたちや孤児院の子供たちが集まっていた。
「何か面白い話?」
「あ、五月様!」
梅酒のカップを手に持ちながら、子供たちの輪の中に入る。
どうやら帝国にあるダンジョンや、依頼の話で盛り上がっていたらしい。特に男の子たちは、そういった冒険談を聞くのは楽しいようだ。
「あ、それ、『うめしゅ』ですか?」
「そうよ」
物欲しそうに声をかけてきたのは、孤児院で最年長のマークくん。
いつもなら、子供たちの面倒をみていて大人びて見えるのだけど、年上の若手冒険者がいるせいか、年相応に見える。
「いいなぁ」
「美味しそう!」
マークくんと同世代のドゴルとナードも羨ましそうに言っているが、彼らの手にはすでにエールの入ったジョッキがある。この世界、15才以上だったら飲酒がOKらしい。
獣人だから、とかではなく、マークくんみたいな人族でも飲むらしい。そんなんだから、妊婦まで酒飲みなのか、と、ちょっと呆れる。
郷に入っては郷に従え、なんだろうけれど、成長期の身体のことを考えれば、やっぱり止めたくなるわけで。
「……梅シロップだったらあるわよ」
「やった!」
声をあげたのはガズゥ。うん、梅シロップ好きだもんね。
皆がコップを差し出してくるので、『収納』にしまっておいた梅シロップを取り出して、皆に分けてあげると、子供たちはすぐに水で割って美味しそうに飲んでいる。
……たぶん、今日で使い切っちゃうな。
「わ、私も頂いてもいいですか」
ハノエさんの妹のネシアさんが、頬を赤くしながらコップを差し出してきた。どうも、すでに酔っているようだ。ハノエさんや、上のお兄さんたちは、かなりお酒に強いようで顔色が変わらないのだけれど、彼女は違うらしい。
「うわ、甘いっ。でも美味しいっ!」
「だろ? 五月様の作った梅シロップは旨いんだ!」
自慢げに言うガズゥに、ネシアさんは目を見開いてコクコクと頷く。
二人は叔母と甥の関係になるんだけれど、ネシアさんがまだ18才というのもあって、姉と弟みたいだ。
「そういえば、ネシアさんはパートナーはいないの?」
兄二人がパートナーと一緒だったせいもあって、何気なく聞いてみた。
「あ、えーと……お、おります……」
ちょっと困ったような顔をしてから、ポッと頬を染めて、そう答えたものだから。
「おー!」
「えー!」
「誰ー!」
そばにいた子供たちが大騒ぎだ。
特に女の子(私も含む)は恋バナに興味津々。
一緒に戻ってきたドゴルたちは知っているようで、皆、ニヤニヤしている。
「今回は一緒に来なかったの?」
「あ、はい。えと、ちょっと兄貴たちにやられちゃって」
「……へ?」
なんと、『俺たちより強くなってから』パターンだった。
「身体がボロボロになってたんで、獣王国の町に置いてきたって!?」
「まぁ、ポーション置いてきたから、そのうち追いかけてくるかもしれないけど」
追いかけてくるのかー!
よくよく聞いてみると、なんと年下の子らしく、その上、ネドリと同じ白狼族の子らしい。ネドリの親族かと思いきや、種族が同じなだけだそうだ。
「青春だねぇ」
遠い目になりながら、梅酒をくぴりと飲む。
「わ、私のことなんかより、サツキ様はどうなんです?」
ネシアさんが話をふってきた。
「あー、いないかなぁ」
そう答えながら、チラリとエイデンの顔が頭をよぎる。
いやいや、彼とは、そういうんじゃないし。
「えー! こんなに可愛いのにっ!?」
「あ、あははは」
10近く年下の子に言われる『可愛い』は微妙な気分になる、アラサーな私なのであった。
 





