第441話 バカラモと『芋』
村の畑では、村人総出で秋植えの野菜の準備に勤しんでいる。
その中には私も含まれていて、タブレットを手にしながら、畑づくりを手伝っている。
「じゃあ、この辺りね。範囲指定してからの、『整地』っと」
今いるのは、水堀で囲まれた村の外。北側の荒地だったところに、畑となる土地を広げている。新たな畑の周りも水堀やマギライ(魔物除けの低木)で囲むべきか、悩むところだ。
「五月様~!」
「お疲れ~」
ガズゥたちが、この前収穫したバカラモ(じゃがいも)の種イモの入った袋を抱えながら走ってきた。バカラモは春と秋、2回植え付けができるので、今日は秋植えの日なのだ。
ちなみに、獣人にとって肉以外では、バカラモは主食のような物なのだそうだ。ただ、小粒なせいもあってか、かなり消費が早い。
実際、少し前までグルターレ商会で買い付けた物や、冒険者になった子たちの買い出しとかで凌いでいたらしい。この秋の収穫が思ったよりも多かったので、一息つけたそうだ。
言ってくれれば、うちの『芋』を差し入れしたのに、と思ったんだけど、そこは彼らなりの矜持みたいなものがあるようだ。
飲み会などで、調理された『芋』を差し入れしたのは食べるのに、『芋』そのものは遠慮したいのだとか。よくわからん。
「今から、『畝』を作るから、出来たところから種イモ植えてってね」
「はーい!」
勢いよく走っていくガズゥたちの後姿を見送る。
「五月様~!」
「なーにー?」
「こっちの『芋』はどうしますかー?」
今度は孤児院の子供たちがやってきた。
彼らは、私がログハウスの畑で育てた『芋』を、小さく切って種イモにしてきてくれたのだ。
バカラモと、うちの『芋』。明らかに大きさが違う。バカラモを小粒の新じゃがサイズだとしたら、うちの『芋』はその3倍から5倍くらい大きいサイズ。
種イモにしても、バカラモはそのまま植えてもいいけれど、『芋』は大きすぎる。
でも、これが育ったら、もう少し食料事情も変わるんじゃないか、と思って、この荒地で育ててみようと思ったわけだ。
「『芋』用にもう一面、整地するからちょっと待ってて」
「はーい」
私が『ヒロゲルクン』で『整地』をして『畝』を作ると、子供たちが一斉に種イモを植え始めた。楽しそうな子供たちの声が青い空の下に響く。
「さすが、早いですねぇ」
「おや、司祭様」
普段は黒一色の司祭の服を着てらっしゃるのに、今日は、シャツにズボンという村人たちと変わらない格好だ。司祭も畑仕事の手伝いをしてくれていたようだ。
「中の方は終わりましたか?」
「北半分の畑に、葉物野菜の種まきは済みましたよ」
今は南半分の方に取り掛かっているらしい。この前来たグルターレ商会で買い付けた、アリオニ(玉ねぎ)とユリビル(ニンニク)を植えるのだそうだ。
今年は小麦も植える予定だそうで、後で南側の荒地も見てほしいと伝えて欲しいと、ハノエさんに頼まれたそうだ。
――司祭を連絡係に使っちゃダメでしょう、ハノエさん。
思わず、すみません、と言おうとしたところに、「ドゴル兄ちゃんっ!」というガズゥの声が響いた。
なんだ? と思ってガズゥの方を見ると、桜並木の道の方へと走っていく姿が見えた。そしてその先には、獣人の若者たちの集団が村の方に向かって歩いて来ている。
ガズゥに気が付いたのか、先頭の方を歩いていた数人がガズゥの方へと走ってくる。
「村の冒険者たちですか?」
「ええ。そうみたいです」
狼獣人の若き冒険者たちが、久々に村に戻ってきたようだ。





