<ゲインズ・アルコ>(2)
ゲインズは先程まで『芋焼酎』が入っていた空になったグラスを、残念そうにテーブルに置いた。そして、もう一つの黄金色の液体の入ったグラスへと視線を移す。
「こちらもどうぞ。村で初めて作ったワインです」
「ヘンリックが書いていたのは、このワインのことか」
鼻に近づけてみると、『芋焼酎』の香りにも負けないくらいの、甘い匂い。
ゲインズは、『聖女の育てた葡萄』のワインを口にした。
「ん! これは匂いに負けず劣らず、随分と甘いがまろやかだな……しかし、後味は爽やかだ……旨い!」
「は、はいっ。これは母とともに作ったワインでして」
ドレイクは顔を赤らめながらも、自慢気に胸を張る。
(ドワーフにしては、このほっそりとした体型……人族の血が入っているな)
ゲインズは、チラッと娘からの手紙のことがよぎり、内心、複雑な気分になる。
「うむ。これは、まだあるのか?」
「いえ、こちらは、元々の葡萄の数が多くなかったので……村にももう残っておりません」
「それは残念だ。これほどであれば、我が国の王家に献上してもいいくらいだぞ」
「ほ、本当ですか!?」
よっぽど嬉しかったのか、グッと両手を握りしめ、喜びを露にしているドレイク。
ネドリも満足げに頷いている。
「ちなみに、お前の母のお名前は」
「は、はい。タイーシャと申します!」
「ふむ、タイーシャ殿か……我が国の酒造りの担い手であれば大概の者の名前を把握しているつもりだが、聞いたことがないな。どちらで、ワイン造りを学ばれた」
「あ……」
ドレイクは一瞬、表情を曇らせる。
「……言いにくいのであれば、無理にとは言わん」
「いえ、あの……父がジェアーノ王国の葡萄農家だったのです。そこで作り方も学びました」
「なるほど。ジェアーノ王国の南部あたりか」
「っ! は、はい」
「であれば、やはり、父親は人族か」
つい、苦々しい思いが口調にも出てしまう。
「苦労したであろうな」
「い、いえ! 父は、父はとても優しかったです!」
グッと口元を一文字にくいしばるドレイク。
その瞳には、強い誇りのようなものが浮かんでいるように見える。
「……そうか」
残りのワインを一気に飲み干したゲインズは、目を閉じ、考える。
(実際に人族と結婚した者の話を聞いて、現実を知るべきか。恋に逆上せている孫も、少しは冷静になるやもしれん)
「ネドリ殿」
「はい」
「あと1か月もすると、孫の学校が冬の休みに入るんじゃが」
「……はい」
「その孫も連れて行ってもいいかのぉ」
「それは、構いませんが、自然しかない、何もないところですよ」
「都会しか知らない娘だ。逆に新鮮に感じるかもしれんしな」
「……そうですか」
ネドリは困惑気味にエイデンの方へと目を向ける。
「構わんだろ。もしもの時は、俺がなんとかする」
ニヤリと笑ったエイデンの目が、一瞬、黄金色の蛇のような目に変わる。
――っ!? こやつ、ただの人ではなかったか!
その視線とぶつかり、ゲインズは身動きがとれなくなる。
「ゲインズ、1か月後に迎えにこよう……約束を違えるなよ」
「……わ、わかっておる」
エイデンの重みのある言葉に、背中にヒヤリとしたモノを感じたゲインズであった。





