<カスティロス>(2)
カスティロスは、静かな回廊をゆっくりと昇っていく。
窓の外は青い空が、その下には深い森が広がっている。深い森の木々の下にはエルフたちの住む街が隠れている。
エルフの国に戻ったカスティロスは、最初にレィティアの住む、この塔へとやってきた。王宮よりも先にここに来るのは、レィティアの夫(稲荷)が異世界の神であることを知っているからだ。これはエルフ族の中でも一部の者しか知られていない。
この塔も、その夫が作り上げた物であり、彼らに害意のある者は入れないようになっている。
カスティロスは、回廊の途中にある小さな木製のドアをノックした。
『はーい』
若い女性の声が返ってきた。
「グルターレ商会のカスティロスでございます」
『はーい!』
嬉しそうな声に、笑みがこぼれるカスティロス。
ドアが勢いよく開き、現れたのは10代前半くらいに見える若いエルフの女性。エルフの特徴であるプラチナブロンドの長い髪に尖った耳。それに黒い瞳を持っている。
満面の笑みで迎え入れる彼女の様子に、カスティロスも笑顔で応える。
「カスティロス様! 久しぶりですね!」
「ディアナ様も、お元気そうで」
「ええ! とっても! あ、お母様にご用事よね!」
「はい」
レィティアには子供が二人いる。そのうちの一人が、このディアナだ。
案内されたのは、高い天井のある大きな広間。大きな窓からは日差しが差し込むおかげで、かなり明るい。
「お母様!」
広いフロアに、大きくて赤く丸みをおびた、クッションのような不思議な形の椅子に座ったレィティアが、何かに刺繍をしている。
その彼女の元へとディアナは駆け寄る。二人並んで見ると、目の色以外はそっくりだ。
「お母様、カスティロス様がいらしたわ!」
「久しぶりね」
にっこりと微笑むレィティアの美しさに、一瞬見惚れるが、すぐに切り替えられるのがカスティロスだ。
「はい、ご無沙汰しております……こちらは、椅子、ですか?」
レィティアに座るように促され、もう一つの椅子(こちらは緑色)を見ながら問いかける。
「ええ。『びーずくっしょん』というんですって。夫が買ってきてくれたのよ」
「ほお」
カスティロスは、レィティアの夫とは直接話したことはないけれど、変わった物をどこからか手に入れては家族を喜ばせているというのは有名な話だ。
中でも『洗濯機』は、魔道具職人のギャジー翁にも噂が届き、魔道具化までしたくらいだ。
「うわっ、なんですか、この感触は!?」
腰かけて思わず大声をあげてしまったカスティロスの様子に、レィティアたちがコロコロと笑い声をあげる。
「驚くわよねぇ。でも、この感触が病みつきになるのよ」
「そうそう、こうやって抱きついてもいいし」
ディアナは跨るように『びーずくっしょん』に抱きついた。
長いスカートのおかげで足は見えないまでも、女性として家族以外に見せるような姿ではない。
「まぁ! お客様の前ではしたない!」
「はーい」
「こほん、あの、本日は今回の行商で得られました商品をお見せに参りました」
「!? もしかして!」
「はい。五月様の村の物もございます」
「まぁ、まぁ、まぁ! すぐに見たいわ!」
刺繍していた物を放り投げ(言葉通り。キャッチしたのはディアナ)、身を乗り出すレィティアに、カスティロスがドン引きしたのは言うまでもない。





