第440話 食い気よりも色気。やっぱり食い気
細かい粒になった椿の種を、大きめの蒸し器で蒸す。大きめといっても一回では全部は無理で、何回かに分けてやるしかない。
「これ、熱いうちに搾って!」
蒸しあがった種を綺麗な布巾に出して、搾る。
私は熱いのを見越して、厚手のビニール手袋をしてるんだけど、獣人の皆は熱さを気にせず、ギューッと搾ってる。ちゃんと、ビニールの手袋を用意してあるにもかかわらず。
「あ、熱くないの!?」
「熱いといえば熱いけど、我慢できないほどじゃないですよ? ね?」
「そうね」
ケロリとした顔で答えるマルママに、のんきに返事するのはテオママ。
子供たちも気にせず搾ってる。どんだけ手の皮が厚いのよ!
そして、私が搾っても中々出てこないのに、彼女たちにかかると、油の滴り方が全然違うのだ。搾り終えた布巾の中身は、完全に油が抜けたカスカス状態。
うん、力技は彼女たちに任せるのが一番なんだろう(遠い目)。
適材適所だ、と考えて、私は種の方をどんどん蒸しては、獣人たちが搾れるように種入り布巾を準備していく(ちなみに、搾り終えた布巾は、破れはしなかったものの、再利用は難しそうである……)。
搾り終えた椿の種の粕は、かなりの山になっている一方、肝心の油の方は、まとめて集めてもボウル1個くらいにしかならなかった。しかし、まだ、細かい搾り粕があるから、漉さないとダメだ。
私は500ミリリットルのペットボトルの口に漏斗をつけて、フィルター用のキッチンペーパーをつけて、油を流し込む。
「わー、きれいー」
テオとマルが興味津々で、落ちていく油を見つめている。
確かに、さっきまで、少しくすんだ感じだったのが、漉しただけで透明感がアップしている。
結局、出来上がった油の量は、ペットボトルの8割くらい。揚げ物でもしたら、すぐになくなりそうだ。
「あの量の椿の種で、このくらいしかできないんですねぇ」
ハノエさんは、残念そう。
気持ちはわかる。
「揚げ物は無理でも、ドレッシングとかには使えるかなぁ。むしろ、髪とか肌とか、美容に使う方が現実的かも?」
「なんですって」
「美容!?」
ママ軍団の食いつきがヤバすぎて、のけぞってしまう。
目のギラつきが違い過ぎるっ!
「あ、はい。椿油は食用というよりも美容の方の話をよく聞くというか」
「五月様っ! ぜひ、教えてくださいませっ!」
……その後は、手に塗ってみたり、髪に使ってみたりと、簡単なマッサージをしてみたりと、美容の話で盛り上がる。
元々、そんなに荒れている手でもなかった獣人たちの手。しかし、椿油を塗ったら、なんか艶が違う。手の皺、なくなってない?
「凄いわ」
「たった一滴よ!?」
「……効き目バツグンね」
「……ハハハ」
――普通は、こんなにすぐには効かないよね?
内心そう思っても、笑って誤魔化した。
こんな風にママ軍団がキャイキャイやっている間、ガズゥたちは手持無沙汰になっちゃっていたようで、気が付いたら。
「五月様~、これ、もう食えますか~?」
果樹園に行ってきたようで、茶色く変わったイガグリを集めてきていた。中身の栗は、かなり大粒。
そりゃぁ、美容の話なんかよりも、食べ物の方がいいという気持ちはよくわかる。
「よし、蒸して食べよう」
「やったー!」
美味しく蒸し栗をいただいたのは、言うまでもない。





