第436話 ドワーフの酒LOVE
ドワーフたちの酒愛を甘く見ていた。
芋焼酎の話をしたとたん、ワインそっちのけで、根掘り葉掘り聞かれるはめになった。
前に村人たちと飲んだ時に差し入れした酒だと知ったら、余計にヒートアップ。かなり気に入っていたようで、ドワーフの国の『火酒』に匹敵するとまで言いだす始末。『火酒』なんて、名前からしてアルコール度数高そう。
実際、芋焼酎のことなんて、私だって大したことを知っている訳ではない。
材料となるのがサツマイモで、麹を使うこと、蒸留する必要があるってことくらい。
麹とは? 蒸留とは? と聞かれても、言葉で説明したところで、ちゃんと伝わっているかも微妙だ。
ちゃんと調べてから、もう一度話しましょう、ということになったのだけど、ヘンリックさんは少し考えると、意を決したような顔になった。
「五月様、お願いがあります」
……あー。
これは、前に、家族を呼び寄せた時と同じ顔だ。
「知り合いを、呼んでもいいでしょうか……酒造りの上手い方なんです」
ヘンリックさん曰く、ドワーフは基本、飲むのが専門。
作るのは、ドワーフの国の『火酒』くらいで、それ専門の一族がいるらしい。
あれ? だったらワインは? と思ったので聞いてみると、タイーシャさんが嫁いだのは人族の葡萄農家だったらしい。
おお、種族を越えた愛! なんて感動的なことを考えたんだけど、旦那さんが亡くなってからの扱いの酷さを聞いて、そんな簡単な話じゃないと知らされて、ガッカリ。今は、幸せそうだから、いいんだろうけど。
そして、ヘンリックさんが呼び寄せたいっていう人っていうのが。
「火酒造りの一族アルコ家の先代当主、ゲインズ・アルコ様です」
「先代って言うからには、かなり高齢なんじゃないの? って、苗字もあって『様』って、まさか、貴族とか!?」
「はい、アルコ家は、火酒造りで貴族になった家です。男爵だったかと思います。それと、ゲインズ様は確かに高齢ですが、未だにご自身の隠居所で火酒造りされているくらいですから、お元気なはずです」
早々に息子に当主の座を引き継いだのも、もっと酒造りの研究をしたかったからだそうだ。
グルターレ商会が、時々、ヘンリックさん宛に小さな酒樽を渡していて、それがゲインズ様特製の火酒らしい。
国にいた頃のヘンリックさんは、ゲインズ様から指名をもらって道具を作るくらいの間柄だったようで、いまだに細いながらも繋がりがあるのだとか。
「この土地には、酒造りの材料と環境が整っております。きっとゲインズ様も気に入られるはず!」
「……で、美味しい酒も作って貰おうと」
「もちろん!」
結局は、それか!
そんなに酒が飲みたいか!
……飲みたいんだろうなぁ。
とりあえず、ヘンリックさんが呼んだからといって、高齢っていうのもあるし、そう簡単に来るとは思えない。
第一、私はゲインズ様がどういった人なのかもわからない。
「ヘンリックさんを信じないわけじゃないけど、呼び寄せる前に、エイデンに見定めてもらっても?」
「ああ! そ、そうですね、当然です」
エイデンの名前を出したら、冷静になった模様。
呼び寄せるにしても、まずは芋焼酎のことをちゃんと調べてから、ということで、一旦引き取ってもらった。
いやぁ、酒に対する熱量、半端ない。
チラリと、芋焼酎以外の酒もなんて思ったら、材料さえあれば作りかねない気がしてきた(遠い目)。





