第435話 焼き芋とワイン
結論からいえば、倉庫、作ってしまった。作成期間は1日。
さすが『タテルクン』。
材料となる木は、日々の山のメンテナンスで貯まりに貯まっていたので、改めて材料を集める必要もなし。
畑の近くに大きな倉庫が2つほど。ドワーフたちが作ってくれたモノも含めると3つ。ドワーフの作った倉庫と並べると、造りはシンプル過ぎるけれど、実用に適していれば問題ない、はず。
さすがに倉庫全部を埋めるほどの量ではなかったものの、2つ目の倉庫の半分はイポモアで埋まってしまった。精霊たち、頑張りすぎだ。
翌日、貰ったイポモアの味を確認することにした。
ログハウス前の東屋のテーブルの上に、山盛りのイポモアと、魔道コンロにお鍋が載っている。
イポモアは、普段は茹でて食べるモノなのだと、オクタさんから教えてもらったので、茹でイモに挑戦するためだ。
茹でて、いざ、試食となった時、一口で固まる。
……ちょっと、思ってたのと違う。
ついつい、ねっとり系のさつまいもの味を連想してたせいだとは思う。
ホクホク感はむしろじゃがいもっぽいし、甘さもあっさりとしていて、控え目だった。これはバターをつけて食べたいヤツだ。
もしかして調理法を変えたら味も変わるのか、と思い、焼き芋にして食べてみた。
アタリである。
黒く焦げた皮を剥いて現れたのは、蜜の塊みたいな色味の、まさにねっとりしたイモ。ここまで甘みが増えるとは予想以上だ。
「こんなに甘くなるとはねぇ」
甘い物といえば、ハチミツくらいしかないこの土地で、イポモアの甘みは、村人たちも嬉しいかもしれない。
次は、干し芋に挑戦しようか、と残っていた茹でイモを手に取ろうとした時。
「五月様、今、よろしいか」
ヘンリックさんが、トンネル側の出入り口の所から、顔をのぞかせていた。
わざわざ、ここまで来るとは珍しい、と思ったので手招きすると、ヘンリックさんの後から、タイーシャさんが袋に入れた何かを抱えてやってきた。
「……もしかして、ワイン?」
「そうです。出来上がりましたので、五月様へとお持ちしました」
「え、でも、ワインにしては早いんじゃない?」
「……精霊様たちのお陰かと」
そう言って苦笑いしてるってことは、精霊大活躍ってことなんだろう(遠い目)。
「ぜひ、飲んでみてください」
タイーシャさんが、不安そうな目で袋を差し出したので、ありがたく受け取った私は、中からワインのボトルを取り出す。
濃い緑の色付きの瓶のせいで、ワインの色はわからない。瓶の蓋はコルク栓ではなく、金属製のボトルキャップ(以前私があげたジャムの、瓶の蓋から発想したのかもしれない)。
クルクルッとキャップを開けて匂いを嗅ぐと、甘い匂いが鼻先をかすめた。
キャンプ用のマグカップを『収納』から取り出し、ワインを注ぎ、それを少しだけ飲んでみる。
「……やだ、凄い飲みやすい」
酸味もあるけれど、甘さの方が勝っているワイン。昼間なのに、もっと飲みたいって思ってしまった。
私のその様子にホッとしたのか、ヘンリックさんの肩の力が抜けたようだ。
「そういえば、ワイン、本数はどれくらいできたんです?」
「いや~、精霊様の取り分が多かったのか、この瓶で30本ほどしか出来ませんでした」
それは残念である。
「ああ、そうだ。このイポモア、食べてみませんか」
大きめな焼き芋を半分に折って渡す。
「イポモアですか? イポモアといったら茹でて食べるものとばかり……んっ!?」
「凄く甘いですね!」
タイーシャさんが目をキラキラさせている。女性は甘い物、好きだもんね。
ドワーフもやっぱり、茹でて食べる一択のようで、今度、焼いてみるという話で盛り上がる。
「茹でたイポモアにバターをのせたのも、またいい酒の肴になるんですよ」
それって、じゃがバターみたいなものだろうか。
再びお酒の話に戻ってしまうのは、やっぱり酒好きのドワーフの性なのか。前に聞いたところによると、こちらで酒と言ったら、エールかワインなのだそうだ。
私が買ってきたアルコール類、味が良すぎて、舌が肥えてしまったらしい。
「そういえば、この芋でもお酒ができるって知ってます?」
「酒!?」
「本当ですかっ!?」
身を乗り出してくるヘンリックさんとタイーシャさん。
ちょ、ちょっと怖いんですけど!





