第433話 ママ軍団、チャッチャカする
マカレナたちの手作りバターは好評だ。
肉好きな獣人たちには、特にガリー(にんにく)入りのハーブバターが大人気だそうで、すぐに完売してしまうらしい。
バター自体は、時間がある時にしか作っていないそうで、ゲハさんが荷車を引いて村まで牛乳と一緒に売りに行ってくれている。
子供2人が気まぐれに作る量だから多くはないので、最近では村人たちの方が牛乳の買い出しに来ては、バターの作り方を聞きにきて自分たちで作るようになったそうだ。
しかし、彼女たちの作るバターの方が美味しく感じるらしく、相変わらずマカレナたちのバターも売れている。貴重な金銭獲得の機会になっているようだ。
正直、材料も道具も、同じ村の物だから、大した差はないはず、と思っていたんだけど……。
チャッチャカチャチャ、チャチャチャ♪
チャッチャカチャチャ、チャチャチャ♪
寺子屋の子供たちへ、飲み物の差し入れに行った時に、ママ軍団が東屋のあたりで踊りまくっている姿を見て、固まってしまった。
周りには精霊たちもわんさかいる。おかげで、チカチカと眩しいこと。
別に、瓶を振る時にBGM必須ってわけじゃないだろうに、と思ったんだけど、どうもそうでもないらしい。
何せ、彼女たちの周りで精霊たちが踊りまくっているんだもの。
「あら! 五月様!」
「こ、こんにちは」
額に汗しながら、瓶を振って、腰も振ってるハノエさん。テオママやマルママ、他にももう少し年上のおばさまたちまでが、チャッチャカ言いながら、瓶を振っている。
――ここはフィットネスジムか!
思わずツッコみたくなった。
「た、楽しそうですね」
「ええ! 今までこんな早いテンポの曲なんて聞いたことなかったし」
「このテンポにのると、楽しいのよ。ね!」
言われてみればそうかも、と思ったのは、村ではあまり音楽らしいものを聞いたことがなかったからだ。
飲み会でも歌を歌うこともなく、ちょっと飲み過ぎてないか? と思う頃に遠吠えのような声をあげるくらいで(遠い目)。
……もしかしたら、人族やエルフ、ドワーフたちだったら違うのかもしれない。
「それにね、どうもこうやって瓶を振った方が、味が違うみたいなのよ」
……なんですと。
ハノエさん曰く、マカレナのバターと、マカレナに教わった通りに作った自作バターを食べ比べてみたらしい。
実際、明らかにマカレナのバターの方が旨味が違ったそうだ。
何が違うのか、調べてみたら……マカレナは歌いながら振っているという。どんな歌か、といったら、あの通り。
実際、やってみたら楽しい上に……やっぱり美味しくなったらしい。
「あー」
私はチャッチャカやってる集団に目を向ける。相変わらず、精霊たちが踊りまくっている。
『チャッチャカチャチャ、おいしくな~れ♪』
『チャッチャカチャチャ、おいしくな~れ♪』
味の違いは、お前らのせいかっ!
……いや、美味しくなってるんだから、いいのかもしれない。いいのかもしれないが。
「五月様も、どうですか?」
「いえ、遠慮しときます」
ハハハ、と笑うと、私はさっさと寺子屋へと逃げ込むのであった。





