第429話 果物、万歳(シャインマスカット)
今日は朝早くから、立ち枯れの拠点に向かってスーパーカブで向かっている。
スーパーカブのエンジン音に反応して村から飛び出して来たのは、ガズゥ、テオ、マルの3人。
「おはようございます!」
「おはよう~」
「何かお手伝いしますか?」
キラキラした目で見上げてくるのはテオとマル。一方でガズゥの目の高さは、すでに私と同じくらいになっている。
前にハノエさんに聞いたところ、ガズゥの成長速度は狼獣人の中でも早い方らしい。たぶん、ネドリの血筋の影響じゃないかってことなんだけど。そういえば、フェンリルの血がどうとか言ってたような気がする。
「じゃあ、お願いしてもいいかな」
私の視線は、拠点の中にある果樹用の棚に目を向ける。
前にヘンリックさんたち、ドワーフに作ってもらった果樹用の棚は、すっかり葡萄の蔦に覆われている。そして、その棚からは白い袋がいくつも下がっていて……すごいパンパンになってるんですけど!
見事にシャインマスカット、生ってました。
正直、私の方では特別なメンテナンスはしていない。この袋がけも、実はドワーフたちがやってくれたのだ(袋は私が用意した)。
ここまで育ったのは、マメに世話をしてくれた(ワインを飲みたい)ドワーフたちと、精霊たちのおかげだろう(遠い目)。
手を伸ばせばとれるところに大きな房があるので、パチンと収穫用のハサミで切る……重いっ!
袋から取り出してみると、現れたシャインマスカットは見事に綺麗な黄緑色。それに、一粒一粒がが大きい。巨峰の大きな粒なんて目じゃない。
拠点内の湧き水のところで、房ごとサッと洗ってから、一粒とって、口に放り込む。シャインマスカットは皮ごと食べられるとあったので、そのまま噛むとパリッとした食感と同時にじゅわっと果汁が溢れた。
「甘っ」
思った以上に甘い。
私の言葉に、キラキラと向けられるガズゥたちの視線。
「はい、どうぞ」
ガズゥたちに一房渡すと、3人でパクパク食べだした。
「ん~! 甘いですっ!」
「ほんとだ! あまいっ!」
「おいしー!」
ガズゥたちの喜びの声があがる。
あっという間に、実はなくなっていた。
「あっ……ヘンリックさんたちに声をかけなくていいんですか」
ガズゥの申し訳なさそうな声に、ハッとした。
「そうだね! 早く食べてみたいだろうしね」
ここまで育てたのは、彼らの酒に対する妄執のおかげなのだろう。
そしてガズゥが代表して呼びに行ったら、猛ダッシュで、ヘンリックさんたちを連れて戻ってきた。たぶん、あの人数、一族総出だわ。
「五月様ぁぁぁっ!」
「あ、うん。どうぞ」
果樹棚へと手を向けると、うおぉぉぉっ、という声をあげて、ドワーフたちが駆け寄ってきて、そのままスルーして棚に行っちゃったよ。
「待ってました!」
「いくぞいっ!」
「おおっ!」
正直、ワインに出来るほどの量はないと思うんだが。
ここにいる皆で食べたりしたら、ほとんどなくなっちゃうんじゃないの?
「なんじゃこりゃっ!」
「旨いっ!」
「甘いっ!」
ドワーフたち的に言えば、お預け状態だったようで、大盛り上がり。
……うん。まぁ、彼らが嬉しいなら、まぁ、いいか。





