第426話 籾摺りと精米
目の前には麻袋が2つ並んでいる。重さとしては、1袋あたり5キロくらいだろうか。
無事に藁を飛ばして籾だけが入っているのは風の精霊たちのおかげ。
どうもユキが籾と藁を吹き飛ばしたのを見ていたようで、風の精霊たちは絶妙な風量で藁だけ吹き飛ばしてくれたのだ(その時にはユキはいなかったからよかった。いたら、余計に落ち込んでいたかもしれない)。
「さて、問題の籾摺りだけど」
キッチンから持ってきたすり鉢に3分の1ほどの籾を入れて、ごーりごーりとすりこ木でする。
3分くらいやると、少しだけ、籾殻と玄米に分かれた。一度、笊にあけて、精霊に籾殻を吹き飛ばしてもらう。
「まだまだだね」
「……うん」
隣で覗き込んでたボルトに言われて、若干凹む。
再び、すり鉢に籾だけ戻して、すろうとした。
「おれ、やる!」
「お、おお」
ボルトが手を上げたので、彼にすりこ木を渡すけど……うん、力が足りない。
「じゃあ、おれだ」
今度はエフィムが代わってくれた。10歳のわりに、少し大柄(といっても、私よりは小さい。肩くらい)なエフィムの方が力があるようで、私と同じくらいのペースで籾殻と玄米が分かれていく。
これを繰り返すこと1時間ちょっと。
結局、エフィムくんと私、それにエリーと3人で交代しながらすったのだけど、いやはや、しんどい。
手元に残った玄米は、大きなタッパーに少し足らないくらい。まだまだ、籾摺りしなきゃいけないのが、残ってるけど……毎回、これはしんどいわ。
子供たちと、冷たいお茶を飲みながら一休みしていると。
「五月、どうした」
「あ、エイデン」
背中に大きな猪を載せて現れた。
今日はネドリたちと、少し遠出をして魔物を狩ってきたのだとか。いつもなら、村で解体してくるのだけれど、かなり大量だったらしく、私の『収納』で『分解』できるのを知っているエイデンは、自分の取り分(といいつつ、いつも私に持ってきてくれているんだけど)だけ、そのまま持ってきたのだそうだ。
「わかった。『分解』ね……ああぁっ!」
「ど、どうしたっ」
馬鹿だね。私。
籾も『分解』できるんじゃないのって、今更気付く。膝から倒れこむ私に、エイデンたちは、オロオロしまくる。
「フッ、いいえ、これも、いい経験よ」
「だ、大丈夫か、五月」
「うん、大丈夫。ちょっと待ってて」
東屋に置いてあったタブレットを持ってくると、籾を一つかみ分を『収納』する。
「それで、『分解』っと」
結論。
籾殻・ぬか・米にわかれた。
ちなみに米は、『鑑定』したら無洗米と出た。
「ハハハ」
――何のために精米機を買ったんだ。
脱力した私から、乾いた笑いが出る。
「本当に大丈夫か?」
「うん、うん、まぁ、大丈夫」
エイデンの声に我に返った私は、彼から猪を受け取り、『分解』する。
今日の夕飯は、猪肉がいいかもしれない。
「悔しいから、籾摺りした玄米、精米してやる」
玄米の入ったタッパーを持って、ログハウスに戻ると、精米機に電源を入れて気が付いた。
「ああ、そうか」
精米機には、精米のメニューがいくつかあった。
3ぶつき、5ぶつき、胚芽米、7ぶつき、白米、無洗米。
私の『分解』だと、無洗米にしかならないけど、精米機だったら、ぬかを残すこともできる。
「考えようによってってことか」
はぁ、とため息をつきつつ、今日はどれにしようかと、悩むのであった。





