第422話 キャサリン、王都に帰る
キャサリンたちは、王太子たちが帰った日から4日間、村に滞在した。
元々1週間ほどの日程だったそうなので、予定通りということなのだろう。
この滞在中、キャサリンとサリーは、山での生活を満喫した。
ホワイトウルフたちだけではなく、牧場で牛たちと触れあったり、ハチの蜜をとったり、立ち枯れの拠点周辺の果樹(桃やすもも、杏)から実をとったりと、充実したものになったと思う。
「すっかり、お顔の色もよくなって」
侍女のマリアンさん(サリーのお母さんなのだそうだ)が、目を潤ませながらキャサリンを見つめている。
マリアンさんがこっそり教えてくれたことには、ここに来るまで、キャサリンはあまりよく眠れないことが多かったらしく、そのせいもあって食欲も落ちていたのだそうだ。
そう言われて、再会した時に思った大人びた印象というのは、少し頬がこけていたせいだったのかも、と、今ではふっくらとした頬のキャサリンを見て思う(けして、キャサリンが太ったわけではない)。
「こちらのお野菜やお肉などの、素材がいいのでしょう。あんなに美味しそうに食べていただけるとは思いもしませんでした。本当にありがとうございました」
今回の旅でキャサリンたちについて来ていたのは、サリーとマリアン(サリー母)の他、御者でデイビー(サリー叔父)、護衛が3人。
ベタベタ女たちが4台もの馬車と護衛たくさん(10人以上いたと思う)で来ていたのと比べると、公爵家の旅の規模としても、かなりこぢんまりしたものだったのだろう。
今回、場所が場所ということで、ネドリが持ってるマジックバッグと同等の物に、料理を持ち込んできていたらしい。しかし、蓋を開けてみれば、屋敷で作ってきた物ではなく、村から差し入れられた食材で作ったマリアンさんの家庭料理を食べたそうだ(ちなみに、今、マジックバッグは、村の果物や野菜、魔物の肉でいっぱいになっているらしい)。
「マリアン義姉さん、そろそろ出ないと」
「ああ、そうね」
デイビーさんの言葉で、マリアンさんはキャサリンの姿を探す。
「キャサリンさまっ」
教会の前で、カモミールの花束を抱えた孤児院の子供たちが、キャサリンの元へと駆け寄っていくのが見えた。
キャサリンは司祭様の授業のお手伝いをしてくれて、子供たちに文字や計算を教えてくれていたのだ。
「まぁ、ありがとう。これは山のハチの巣の近くにあった花ではなくて?」
「はいっ」
「いっぱい咲いてたので、サツキ様にお願いしてハチさんたちから分けて頂きました」
「んー、いい香り。ありがとう!」
パーッと輝くような微笑みに、子供たちは頬を赤く染めている。
うん、綺麗だもんね。キャサリン。
「お嬢様、そろそろ」
「ええ、わかっているわ」
マリアンさんの言葉で、キュッと顔つきが変わる。
――貴族って、子供のころから表情管理してるのね。
キャサリンの苦労が垣間見れた気がした。
「マリアンさん、これ」
私はローズマリーの苗木が2本入った紙袋を渡した。
「これは、この前頂いたローズマリーですか?」
「そうです。よかったらお屋敷の隅にでも植えてください」
「! ありがとうございます」
「え、いえいえ、どうか頭をあげてくださいっ」
深々と頭を下げられて、あたふたする私。
一応、紙袋にはローズマリーの使い方のメモを入れたので(書いたのはハノエさん)、お屋敷でも使ってもらえることを祈る。
見送りは孤児院の子供たちの他は、私とエイデン、司祭様と変化の魔道具を付けたネドリのみ。ガズゥたちは石壁の門のところから覗いているはずだ。
キャサリンを乗せた馬車と馬に乗った護衛たちが、ゆっくりと宿舎の敷地から出ていく。
「キャサリンさまぁ!」
「また来てくださいねー!」
「またきてねー!」
子供たちの声が聞こえたのか、窓から顔を出し、満面の笑みで手を振るキャサリン。
「きっと、また来るわっ!」
キャサリンの澄んだ声が、青空に響いた。





