第421話 王太子、王都へ帰る
翌日。
朝から王太子一行は慌ただしく王都へと戻っていくこととなった。
なんでも、王都にあるゴンフリー侯爵家と、大司教に神罰が下った、ということで、かなりの騒ぎになっているのだとか。
王太子としては、もう少し、こちらでネドリに剣の稽古をつけてほしかったらしいが、国王陛下から戻ってくるように言われてしまったらしい。
「お気をつけてくださいね」
「ああ。落ち着いたら、迎えに来る」
……私は何を見せつけられているのでしょうか。
キャサリンと王太子、キラキラの二人の別れのシーンですよ。
王太子たちは戻るけど、キャサリンとサリー、そのお付きの方々は、まだしばらくここに残ることになったそうだ。
なんと、キャサリン関係のトラブルの黒幕っていうのが、ゴンフリー侯爵家関係というのはわかっていたものの、明確な証拠となる物がなかったらしい。
しかし、今回の神罰が下ったことをキッカケに、この機会に一気に叩くようだ。
「モチヂュキ様、どうか、キャサリンをお守りください」
先ほどまでの甘々な雰囲気はどこへやら、キリリとした顔でお辞儀をしてくる王太子。
私は神様じゃないんだけど、と思いながら苦笑いを浮かべる。
「……エイデンたちもおりますから、大丈夫ですよ」
「はい。では、また」
王太子の乗った馬車が2台、護衛たちとともにゆっくりと宿舎の土地から出ていく。
1台目は王太子が乗り、2台目には、石壁の外に設置した売店で買い求めた物が収められている。村にとっても、久々の現金収入だから、皆、ホクホク顔だった。
「……あの子、また、って言ってましたよね」
「……ええ」
私の隣に立っている司祭様は、困ったような笑顔。
キャサリンを迎えにくる、という意味ならまだいいけど、単に遊びに来るとかだったら、勘弁してほしい、と思う。
「それにしても、大司教に神罰が下ったとは(教会本部は大丈夫だろうか)」
司祭様が心配そうに、馬車の去った方へと目を向けながら呟く。
私も、精霊たちがどこまで、何をやらかしたのか、凄く、凄ーく、心配である。
* * * * *
『殿下っ!』
馬車の外から護衛が声をかけてきた。
「どうした」
『前方に、怪しいモノと人だかりが。確認して参りますので、しばらく中でお待ちを』
「わかった。お前も気を付けろ」
『はっ!』
馬車が止まったのは、ケイドンの街まで、普通の馬車なら半日くらいの場所だった。
本来なら、一回は野営をしなければならないところなのに、思いのほか、馬車のスピードが早く、予定よりも早くにケイドンに戻れそうだった(風の精霊、大活躍である)。
「一体、何があったのでしょう」
眉間に皺をよせながら、窓の外を見るディルク。
その窓に、前方から戻ってきた護衛が青ざめた顔で報告にやってきた。
『殿下、前方には巨大な蔦の塊がいくつか転がっておりまして道を塞いでいるようです。冒険者ギルドの者たちが確認作業をしているようです』
「そうか、彼らの邪魔をしないよう、避けて進むように」
『はっ』
件の緑の塊の脇をゆっくりと馬車を進める。
冒険者たちが、蔦の周りを囲みながら、確認作業をしているようだ。
「……そういえば、王都のゴンフリー侯爵家の屋敷も蔦で覆われていると陛下がおっしゃっていたが……まさか」
荒地の道に転がる緑の塊をジッと見つめる王太子を乗せて、馬車はケイドンの街へと向かった。





