第417話 怒れるユキ
大柄なホワイトウルフたちが一斉に、ユキたちの後を追って、林の外の方へと走っていく。
『さつきは、おれたちがまもるぞ!』
オオーンッ
……泥まみれのムクが、カッコいいことを言ってるんだけど、様にならない。
しかし、彼の言葉に遠吠えで応えたホワイトウルフたちは、私たちの周りで固まっている。身体が小さめなのは、メスか子供なのかもしれない。
「な、何が起きてるのでしょう」
ギュッと私のシャツの裾を握りしめるキャサリン。サリーも不安そうな顔をしている。
「わかんないけど……ユキたちだったら大丈夫な気がする」
『ユキ姉なら、大丈夫さっ!(スノー兄貴は、怪しいけどな)』
『大丈夫よ~、風の子がついてってるし~』
横から話しかけてきたのは、水の精霊。他にも風や光、土の精霊も飛び交っている。
すでに見慣れた光景ではあるので、苦笑いを浮かべる私。
「そうね……それよりも。その泥まみれなのを、なんとかしようか。ムク」
『あっ』
私の冷ややかな視線に、身体を縮こませるムクなのであった。
* * * * *
最初に、ユキの耳に聞こえたのは、ウノハナの「キャンッ(痛いっ)」と叫ぶ声だった。
他のホワイトウルフたちには聞こえないレベルでも、従魔となったユキの耳には聞こえてくる。その後にシンジュの唸り声と「ワンワンワンッ(ウノハナに何するっ!)」と吠える声が聞こえ、これはマズイ状況だと感じ取ったユキ。
『林の外に、瘴気臭い人間たちがうろついてる……気を付けろ』
風の精霊がこっそりユキの耳元で教える。
――もしや、五月様を狙って?
ワオォォォン(敵だ!)
五月たちを後に残し、走り出す。
『急ぐわよ』
『アア』
言葉少なに、ユキと並走するスノー。ユキの尻に敷かれっぱなしのスノーだけれど、大事な時には頼りになることをユキは知っている。
『いたわっ』
ユキの目の前に現れたのは、冒険者のような格好をした数人の男たち。その中の一人に、ウノハナが押さえつけられている。
『ね、ねえさまっ』
本来のウノハナであれば、人族の冒険者くらい、一匹でも制圧できるはず。しかし、力が入らないのか、目には怒りを浮かべながらも、舌をだらりと出したまま、立ち上がれない状態。
『ユキ姉、あいつ、変なの持ってるっ』
『シンジュ、あんたは大丈夫なのね』
『うん、ウノハナ、あいつに何か投げつけられたの。それを尻尾で弾き返そうとしたら』
ユキはウノハナの尻尾を見ると、付け根近くまで黒ずんでいて、瘴気らしき黒っぽい煙が立ち上がっている。
『……ウノハナになんてことしてくれてんのよ』
グルルルッ、と歯をむき出し怒りを露にするユキに、他のホワイトウルフたちにもその怒りは移っていく。
「やばいっ!」
「こんなにいたのかよ……」
「う、『ウィンドカッター』!」
『ふんっ、そんなそよ風程度で、私に傷をつけられるとでも!』
ユキは魔法を右前足で粉砕すると、放った男へと、その倍以上の力で同じ魔法を投げ返す。
「ぐわっ!」
「ゲニー! くそっ、アレがホワイトウルフなのかよっ。魔法まで使えるとか、聞いてねぇぞっ」
「デカすぎだろ……」
「ここまで来て……」
「と、とりあえず、そいつだけでも連れていかねぇと、お嬢様に殺されるぞっ」
「馬鹿言うな、逃げる方が先だっ!」
『……逃がすわけなかろう!』
ユキの言葉と同時に、ホワイトウルフたちが一気に襲い掛かった。





