第415話 悪夢と氷
今日はキャサリンとサリーが、朝早くから、うちのログハウスまでやってきた。ユキとスノーが途中まで迎えに行ってくれたらしく、彼らの背に乗ってやってきたのだ。さすがに公爵令嬢たちが村の中でユキたちの背に乗ろうとしたら、王太子なり、護衛たちが止めたに違いない。
「朝早くから、すみません」
「いいのよ~。洗濯も終わったし、こっちから迎えに行くつもりだったもの。ユキ、スノー、ありがとうね」
『いいのよ。私たちもキャサリンたちと会えて嬉しいもの』
『(ユキガウレシイナラ、オレモウレシイ)』
キャサリンたちには、ユキの言葉は通じないようだけれど雰囲気は伝わるようで、嬉しそうに抱きついている。
「なんだか、ぐっすり眠れたおかげで、早くに目が覚めてしまって」
「キャサリン様、今日はいつもよりも、ちゃんと食事もとれたの」
「え、ダメよ。朝ごはんはしっかり食べなきゃ」
ここにいた時は、ガズゥたちにつられてなのか、ちゃんと食べてた記憶がある。
「……最近、悪い夢ばかり見るせいか、朝から疲れて、食欲もなかったんです」
「夢かぁ」
さすがに夢となると、どうしようもない。
そういえば、ハーブで魔除けになる物があったはず……ローズマリーだったっけ。
気休めでも、枕元に小枝でも下げてもらったらどうだろう。
後で、立ち枯れの拠点で、採って渡してあげてもいいかもしれない。
「でも、昨夜は本当にストンッと眠って、目が覚めたら朝だったのです。自分でも驚いてしまいました」
「よっぽど疲れてたんでしょ」
貴族の馬車に乗ったことはないが、この荒地の道を走ってくるのだ。軽トラでも揺れるのだ。その比ではないだろう。
そうでなくても、あのベタベタ女たちで気疲れだってしているに違いない。
「ここに来るのも、少し疲れたんじゃない? 今、飲み物用意するから、あそこで待ってて」
「はい」
「あ、私はお手伝いします」
「いいから、いいから。サリーも座って待ってて」
ログハウスの前の小さな東屋に二人を座らせて、私は家の中に入る。
「さてと、今日も暑くなりそうだからねぇ」
貯蔵庫から『収納』に移しておいた梅シロップの瓶を取り出す。
最近はここまで来る人が多くなったので(ガズゥたちはもちろん、ハノエさんたちママ軍団や、牧場のマカレナたちなど)、来客用のコップも用意してあったりする。使い捨てではない、カラフルなプラスチック製のコップ。
ちょっとチープな感じだけれど(実際、そんなに高い物ではない)、ハノエさんたちには好評で、今度、プレゼントでもしようかな、と思っている。
これにシロップを入れて水で割る。これでも十分美味しく飲めるのだけれど。
「製氷皿出して~、水入れて~。さて、水の精霊さん、いつものお願いしまっす」
『は~い!』
100均で買ってきた製氷皿。これにたっぷりいれた水が、あっという間に氷になった。
これ、ドワーフたちの飲むお酒用にと、スーパーで買ってきた氷を見た水の精霊たちが、自分たちでも作れると、言いだしたのがきっかけ。
土や光の精霊たちが私の手伝いをしてるのが羨ましかったらしい。
「ありがとうね~」
『イェーイ』
水の精霊たちが嬉しそうに飛び回る。
出来上がった氷を梅ジュースの中に落とす。うん、美味しそうだ。
『これも凍らせる?』
コップの上に止まって、私の顔を見上げる水の精霊。
「やめて~!」
それ、飲めなくなるから!





