<エイデン(と精霊)>
東屋のテーブルには、五月お手製のミサンガやストラップ等が何本も並んでいる。
ホワイトウルフの毛で作られた白い毛糸をベースに、あちらの刺繍糸や、染色された毛糸、魔石やあちらのビーズを使った物など、様々だ。
五月製の物は、グルターレ商会になど卸せない物ばかりなので、身内にしか渡せない。
そのせいで、どんどん『収納』に溜まっていく。
「これ、綺麗ですね」
キャサリンがキラキラした目で手にしたミサンガは、ホワイトウルフの白地の毛糸に、赤やピンクがグラデーションになった刺繍糸と、小さい真っ赤な魔石がいくつか編みこまれている。
「あ、それ、ちょっと頑張ったのよ」
五月は嬉しそうに言っているが、その『ちょっと』が怪しい。
――だが、これくらいの物であれば。
「あっ」
エイデンはキャサリンの手にしたミサンガを手にとって、ブツブツと呟く。
『この者を守り、襲い掛かる者を斃せ』
ぽわんっとミサンガが光り、小さな赤い光の玉……火の精霊たちがいくつも浮かぶ。
それに気付いたのは、五月だけ。大きく目を開き、エイデンへと目を向ける。
「キャサリン、手を出せ。結んでやろう」
「ありがとう存じます」
嬉しそうに微笑み、左手を差し出す。
「サリーも、気に入るものを探しておけ」
「はいっ!」
エイデンの言葉に、サリーは嬉しそうに返事をすると、熱心に探しだす。
キャサリンは腕にしたミサンガを撫でながら微笑んでいる。その周りを、小さな土(緑)と光(白)、火(赤)の精霊たちが飛び回っている。
「……エイデン、精霊たち、大丈夫なの?」
この山での精霊たちのパワフルさを知っているだけに、キャサリンたちが王都に戻った時に、精霊たちが彼女たちに迷惑をかけやしないか、五月は心配に感じたのだ。
「心配することはない。五月の土地だから、精霊の力が強く出ているだけだから。これから先、王都に着くまでに大きく育つか、そのままか。あるいは減っていくかはキャサリンたち次第だ」
「そうなの?」
エイデンの言葉でも心配そうな五月の周りを、精霊たちが飛び回る。
『しんぱいしょうなの』
『だいじょうぶなの』
『わたしたち、ちゃんと、まもるわよ?』
「……ほどほどにね」
「五月様! 私、これ……」
サリーが恥ずかしそうに差し出したのは、キャサリンとは色違いの青系のミサンガだ。
「どれどれ」
エイデンはミサンガを手にして、再び、『この者を守り、襲い掛かる者を斃せ』と呟くと、ミサンガが光って、小さな青い光の玉……水の精霊たちがいくつも浮かんだ。
「なんか『斃せ』とか、物騒なこと言ってない?」
「……気のせいだ。ほら、キャサリン、王太子たちには、このへんはどうだ。五月、これは『すとらっぷ』とか言うのであったな?」
「まぁ、綺麗」
キャサリンの目が止まったのは、白にエメラルドグリーンの刺繍糸を編みこんだストラップ。それを3本、手にしたエイデンは、それぞれをゆっくりと指先でなぞると、かすかに緑に光った。
「(少しは身を守れるだろう)大事にするがいい」
「ありがとう存じます。エイデン様」
「ありがとうございます!」
嬉しそうな二人の様子に、笑みを浮かべる五月。
その彼女を眺めるエイデンは幸せそうに笑みを浮かべている。
『こりゅう、だらしないかお』
『しかたない』
『だな』
『まぁ、わたしたちも、うれしいし』
「……うるさいぞ、お前ら」
『きゃー!』
東屋の周辺は、多くの精霊たちが楽しそうに声をあげながら飛び周っていた。





