第411話 精霊は悪心探知機
そういうのは、小説とか漫画とかで触れる世界であって、自分の身近ではマジで勘弁してほしいと思う(遠い目)。
でも、今、目の前のキラキラしている二人にとっては、リアルな話なのよね。
「今回の旅行、ここまでは何事もなく来れましたが、あれで大人しく戻るかどうか」
「アラン様……」
……美少年と美少女が見つめ合う図は眼福ではあるけれど、砂糖吐きたくなってるのは私だけでしょうか。
いや、ディルクも目が死んでるか。
「……うん、今はどうしようもないから、とりあえず、村の中を案内しようか」
今回、本来は『キャサリンおかえり~』的な気でいたんだもの。お邪魔虫がいなくなったことだけでも良しとしよう。
問題は、村の中に迎え入れる人なのであるが。
「中に入れるのは、キャサリンとサリーは確定だけど」
他の侍女たちと一緒に離れたところに立っていたサリー。白い襟に黒のワンピースを着ている姿に萌える!
サリーはキャサリンの2つ下だったはずなのに、1年で、なんとキャサリンと同じくらいの背丈になっていた!
私に声をかけられたサリーは、どうしたらいいんだろうっていう顔で、周囲を見回している。可愛い~!
「あとは、殿下も視察っていうから、仕方ないか」
「(し、仕方ないって……)あの、ディルクはダメだろうか」
不安そうな目になる王太子。ディルクも納得いかないって顔をしている。
王太子だけに護衛は同行させたいってところなんだろうけど。
「……五月、あの男と水の精霊がついていたヤツは大丈夫だ」
背後にいたエイデンが、こっそり耳元で囁いた。
「え、なんで?」
「あれだけ大きく育った精霊を持つ者に悪い者はいないし、この土地の精霊が新たに付いた者には(五月に対する)悪心はない。微かにでもあると、精霊は離れていく。あのディルクという男には、小さいながら精霊が張り付いている。ほら、肩のあたりを見てみろ」
そう言われて、じーっと見ると、本当に小さな白い光の粒がいくつか浮いていた。
「光の精霊……かな」
「ああ。この土地についてから、何人か精霊の付いた者がいる。それらは(五月にとって)信頼に足る者だろう」
周囲を見回すと、確かに、一人、二人と、小さな光の粒のついている人がいた。王太子とキャサリンにも緑と白い光が舞っている。
だったらうちの村人は? と思ったけど、村の中は精霊だらけで、誰に何がついてるかなんてわかんなかったわ。
「じゃあ、ディルクくんと、あと、あの人」
水の精霊持ちの護衛を指名すると、水の精霊の方が喜んであちこち飛びまくっている。
「アーサー、頼むぞ」
「はっ!」
「殿下! クロンメリン卿だけでは心もとないです! ぜひ、私もっ」
護衛の中の一人が、慌てて声をあげた。
「リョーク……」
殿下が渋い顔をしている。
「リョーク、中に入る者を決めるのは、モチヂュキ様だ。それにアーサーだけではない。ディルクもいる。それに、ここはイグノス神の認める『聖なる土地』ぞ。何の心配がある」
「しかし」
――粘るなぁ。
ちなみに、この人には、精霊は付いてない。
例え付いてても、めんどくさそうな人だから連れて行かないけど。
「あー、もしかして、賊に襲われるとかいうのを心配しているのでしたら、村の中にはそういった者は一切入れませんから、ご安心を」
「……村の者たちがそうではないと、言い切れまい」
リョークと呼ばれた護衛が、ギロリと睨んでくる。
「そこは、信用してもらわないと。だったら、村に入らなければいいだけの話ですよね?」
「リョーク、お前が私を心配してくれるのはわかるが、公爵家のキャサリンですら、小さなメイド一人だけなのだぞ?」
「そうはおっしゃいますがっ!」
「私はこの場でお開きにしても構わないんですよ?……先程の……侯爵令嬢たち同様に」
キャサリンたちだけでもいいんだし。
「モチヂュキ様! リョーク、いい加減にしろっ」
「くっ……申し訳ございません……」
絶対、思ってないよねー。
「……その煩い奴、潰すか?」
「やめて」
エイデン、物理的にやりそうで怖いです。





