第410話 貴族、怖っ
王太子の婚約者候補は、最初、5人いたらしい。
そのうち1人は事故、1人は病気で亡くなり、2人は辞退、残ったのがキャサリン。
元々、キャサリンは王太子と幼馴染というのもあり、そのまま確定しそうだったところに、ゴンフリー侯爵の次女で、王太子と同い年のベタベタ女が出てきた。
ゴンフリー侯爵家には、すでに成人している長男と長女がいて、長女に至っては、すでに同じ派閥の伯爵家に嫁いでいる。その中でベタベタ女は年の離れた次女ということになる。
そのベタベタ女、病気療養中で領地で引きこもり生活をしていたのが回復したのだとかで、王都に戻ってきた時も、華々しいパーティなども開かれたそうだ(私にはどう見ても、そんなか弱い系の令嬢には見えなかったけど)。
一応、お見合いはしたものの、王太子の中ではキャサリン一択だったようで、ベタベタ女との話はなくなった。
「しかし、彼女の方は諦めていないようでねぇ……」
王太子が遠い目になってる。
12歳になって学校に行くようになってみれば、ベタベタ女も当然入学しているわけで、そこからの猛アタック。
クラスが違っても、とりまき引き連れて突撃してくるものだから、始末が悪い。
やんわりと躱し続けていたものの、さすがに、王太子も疲労困憊。
最終的に、自分には婚約者がいるのだから節度ある接し方を、と強めに窘めると、不本意そうにしながらも距離を置いたようだったのだが。
「その後です。キャサリンが誘拐されたのは」
公爵家では誘拐の件は極秘裏に調査をしていたので、王家と宰相には知らせてはいたものの、世間一般には知られていなかった。
「殿下も極力、表情には出さないようにしていたはずだったのですが……なかなか発見されない日が続いたこともあり、周囲も体調を気にするくらいになったところで、ゴンフリー侯爵令嬢が再び接触してきたのです」
渋い顔で言うディルク。侍従兼護衛ということで、学校内では王太子と一緒にいることの多い彼は、ベタベタ女を客観的に見られる立場にいたようだ。
「殿下の体調を気にかけているように近づきながら、獲物を狙うような目をしてたのを思い出すと、寒気がします」
当時12歳の女の子が獲物って……と思ったけど、さっきまでのベタベタ女の様子を見てたら、やりそう~って思うわ。
「その後、無事にキャサリンが戻ってきたからよかったものの、もしあのまま戻らなかったら……ゴンフリー侯爵令嬢が繰り上げで婚約者になってたかもしれないのです」
ブルブルッと身体を震わす王太子。そこまでかい。
その後、エクスデーロ公爵家と王家、それぞれに調査を進めていくと、過去の婚約者候補(伯爵家)たちの辞退にゴンフリー侯爵家が圧力をかけていたことがわかった。そうなると、過去の病死や事故死にも目が行くわけで、確たる証拠は見つからなかったけれど、限りなく黒に近いグレーだろうと。
――貴族、怖っ!





