第409話 王太子、(うんざりしながら)説明する
「……本来であれば、もう少し余裕を持った訪問にするつもりだったのです」
王太子が申し訳なさそうな顔で言う。
「実は、叔父上から、モチヂュキ様のお名前を聞いておりまして」
なんでも、うちの契約書の確認の場に、王太子の叔父さん(オーケルフェルト公爵)が同席していて、王家の方でその書類を預かることになったそうだ。
王家内での報告の場に王太子もいたそうで、そこで私の名前を聞いたらしい。
「どこかで聞いたことがあると思ったら、以前、キャサリンを助けて下さった方の名前ではないかと思い、彼女に聞いてみれば、そうだと言うではありませんか」
「私、アラン様から五月様の名前が出てくるとは思いませんでしたわ……でも、お名前を聞いたら、もう一度、五月様にお会いしたくなって……」
二人のお茶会の場での、いつか一緒に行きたいですね、という話から、キャサリンのお父さんであるエクスデーロ公爵がちゃんとした護衛付きでなら行ってもいいという許可がおりたのだという。
難しいだろうと思いながら誘ったキャサリンだったのに、王家(特にオーケルフェルト公爵からの勧めもあって)が私との縁を繋いでおきたいという思惑が絡んできたようで、本当に行く話になったのだという。
……私との縁といっても、何もないぞ、と思うんだけど。
「私としても、直接、感謝の言葉をお伝えしたいと思っていたのです。本当に、モチヂュキ様、キャサリンを助けて下さり、ありがとうございました」
王太子はわざわざ立ち上がって頭を下げてきた。それにならうように、キャサリンも立ち上がって同じように頭を下げる。
「いやいやいや、もう気にしないで。ほら、座って座って! それよりも、なんでお邪魔虫までついてきてるの?」
「お邪魔虫……」
「ああ、本当に、邪魔でしかないのですよ……」
うんざりした顔の王太子は、お邪魔虫たちのことを話し出した。
最初、夏季休暇に入る少し前に、ベタベタ女から自領の避暑地で過ごさないかと誘われたのだとか。その時点で、キャサリンとうちに来る話が出ていて予定の調整をしている最中だったこともあり、断ったのだそうだ。
王都からここまで、往復で考えても、普通なら1か月近くかかるし、ベタベタ女の領地って、真逆にあって立ち寄る場所でもなかったのだとか。
「立ち寄れたとしても、行きませんけど」
――王太子、マジで嫌いなんだね。
そこに教会の大司教が絡んでくる。
なんと、あのベタベタ女、大司教の姪なんだとか。へー、である。
教会自体、コントリア王国内でもかなり力があるそうで、そのせいもあって、ゴンフリー侯爵家も、貴族の中でも影響力の強い一族になっているらしい。
そして、どこから情報が漏れたのか、『神に愛されし者』の土地に行くのであれば、姪もぜひ同行させてほしいと、大司教が言いだしたのだそうだ。
そこで同行者候補になったのが、宰相の息子のヘンリック・マルムロス伯爵令息。学校でも、王太子の側近候補の一人で、どうも母親がベタベタ女の一族らしい(それも後妻さん)。
もう一人のユリウス・レミネン辺境伯令息(王太子の従兄弟)は、ただの脳筋で空気読めないタイプらしい。辺境伯側の転移陣で待ち受けていて、一緒に来ただけという。彼が次代の辺境伯というのが、凄く心配らしい。
日程をあやふやな状態にして、利用するつもりではなかった転移陣を急に予約したにも関わらず、王城内の転移陣の間の前には、大司教とともに、すでにベタベタ女と宰相の息子が待ち構えていたのだとか。
「うわっ、怖っ」
「ええ、あの顔でニタァと嗤われたら、固まるしかありませんよ」
ハハハと乾いた笑いが零れる王太子。
結局、馬車や宿の予約に関してまで相手側に合わせられて、その上、ベタベタ女と宰相の息子、従兄弟の4人で馬車には乗せられるわ、キャサリンたちとは別になるわで、本当は爆発寸前だったのだとか。
「王太子だったら、はっきり拒絶すればいいのに」
「……そうしたいところなのですがね」
なんと、ゴンフリー侯爵家に、キャサリン誘拐事件の疑惑が浮上しているらしい。





