第406話 王太子と、不愉快な仲間たち(1)
私は今、目の前の状況にモヤモヤしている。
「アラン様、こちらの菓子、お召し上がりになりました?」
「いや、まだだ」
「でしたら……あーん」
――ねぇ、コイツ、マジで王太子で、キャサリンの婚約者なんだよね?
ここは宿舎の敷地の中に用意した大きめな東屋。
彼らを村に案内するべきかどうかは、まだ様子見状態。さすがにケイドンの街から来たばかりということもあって、休憩も兼ねて東屋で接待している状況。
……なんだけど、キャサリンの婚約者だという王太子アラン・コントリアっていうのが、今、目の前で、キャサリンを隣に座らせた状態で、自分を挟んだ反対側に別の女を侍らせているんだが。
そう、侍らせている。
この暑い場所で、王太子にしなだれかかってるのだ。
「エミリア嬢、場所を弁えよ」
「あら、失礼しましたわ」
王太子に優しく注意されて、ウフフとか余裕で笑ってる女にイラっとする~!
「サツキ様、こちらとっても美味しいです」
隣に座っている私にこっそり話しかけてくるのは、11歳になったキャサリン。
一応、王族が来るっていうのもあるけど、キャサリンたちに美味しい物を食べさせたかったので、ちょっと遠出して、大きなショッピングモールまで行って有名菓子店で焼き菓子買ってきたのよ。
キャサリンの嬉しそうな顔が見られて、さっきの苛立ちが少しだけ治まる。
何もない田舎なのをわかっているせいか、とってもカジュアルな水色のサマードレスで来ているキャサリン。たぶん、前にあげた服を参考にして作っているのがわかる。
――やだもう、可愛すぎる!
初めて出会った時もビスクドールみたいって思ったけれど、1年経って少しだけ大人びた感じになったようだ。笑顔の彼女に、私もメロメロ。
……なのに、他の男どもは、あのベタベタ女の方に目がハートになってる。
他の男ども……正確には、王太子の側近候補とかいう者たちだろう。
今、この東屋の丸テーブルには、私を含め、6人が座っている。
まずは、王太子であるアラン・コントリア(13歳)。明るい金髪に青い目のまさに『王子様』って感じ。これまで培った美女や美男のDNAの結晶なんだろう。
あまり表情がない感じで、冷たそうな印象。
その隣にベタベタしてるのが、エミリア・ゴンフリー侯爵令嬢(13歳)。赤い髪に緑の目という色合いだけなら、『赤〇のアン』なんだけど、あんな可愛いもんじゃない。
13歳なのに、なに、あの色気。豊満な胸(クッ、あの年であのデカさはおかしい!)ってだけでなく、たれ目に目元の黒子で、色気マシマシ。本当に13歳なのかよ、ってツッコみたくなる。
ベタベタ女(でいいよね?)の隣に座るのがユリウス・レミネン辺境伯令息(13歳)。今回、王都から移動するために利用したのが、この彼の家にあるという転移陣らしい。
その隣がヘンリック・マルムロス伯爵令息(12歳)。父親が宰相なんだそうだ。
そして、私、キャサリンの順に座っているのだが……王太子、ちゃんと婚約者の方、見なさいよ。
この4人は同じ学校に通っている仲間なのだそうで、今回、学校の夏休みを利用してキャサリンの旅行についてきたわけだ。
ちなみに、キャサリンはまだ、彼らが通っている学校には入っていない。12歳から通えるそうなので、来年になったら通うことになるそうだ。
しかし、この状況にキャサリンが後から入って、苛められたりしないんだろうか、と心配になる。
「……サツキ様、ごめんなさい」
こっそりと謝ってくるキャサリン。
どうも私は苛立ちを隠しきれてなかった模様。というか、隠す気はないな。
「キャサリンのせいじゃないよ。空気読まないでついてきた、こいつらのせいでしょ」
……ごめん、私はこっそりは無理でした。えへ。





