第402話 エクスデーロ公爵からの手紙
ログハウスに戻った後、小さな東屋で、届いた手紙を前に渋い顔になる。
いまだに自力で読めないので(一文字一文字は読めるけど単語となると難しい……筆記体? はそれ以前の問題)、タブレットを使って『翻訳』した私。
送り主は、キャサリンの父親であるエクスデーロ公爵からだった。
「うーん、キャサリンたちが来るのはいい、いいんだけどぉ……」
仰々しい言い回しの中から読み取るに、手紙の内容は、簡単に言えば、キャサリンが遊びに来るというもの。1年ぶりに会えるのは、それは楽しみではあるのだが、それよりも面倒なのは。
「なんで王太子まで、来るのかなぁ?」
なぜか、王太子とその取り巻きみたいなのまで来るらしい。
貴族やら王族やらのイメージとして、絶対、お付きの人だとか護衛だとか、大人数で来るイメージなのだが、案の定、少なくても2、30人は来るらしい。
そもそも、王都とこの村までけっこう距離があるはずなのに、なぜ、わざわざ来るのか(司祭様から聞いたら、普通は馬車で2、3週間はかかるらしい)。
「……もしかして、キャサリンたちのことは建前で、今頃、土地の確認に来たとか?」
そう考えたら、ありそう~、とか思ってしまう。
一応、ちゃんと国からも私の土地として承認されているというのは、司祭様から聞いてはいる。しかし、村の中まで入っているのは、今のところグルターレ商会の関係者だけ。彼らが、よそで吹聴してはいないと思うので、怪しい村って思われてもおかしくはないのか。
「キャサリンたちには会いたいけど、すんごいめんどくさいな~」
どっちにしろ、来ることは確定事項のようなので、ネドリたちに相談しないといけないと、翌日、早めに相談に行ったのだが。
「五月様、この手紙はいつ」
「え、昨日だけど」
「くっ、まずいですよ」
ネドリが言うには、この手紙が書かれたのは約2週間ほど前のことで、冒険者ギルドに依頼して届けた物にしては早い部類になるのだとか。
「しかし、この出発の日付、これは今日になっています」
「うん、だったら、早くても2週間くらいかかるとみれば……」
「いえ、残念ながら、早ければ2,3日で来ますね」
「な、なんで!?」
なんでも、王太子の実母である王妃様っていうのが、ケイドンの街の領主の領地のお隣の辺境伯の娘さんなんだとか。
「おそらく、辺境伯のところでは転移陣があってもおかしくはないかと」
「転移陣って」
「ジェアーノ王国のラインハルト様が脱出された時に使われたものです」
「……えー」
そんな非常時に使うようなものを、子供のために使う!?
あ、いや、調査のためになら使う……のか?
「ケイドンの街は普通の馬車で1日ですが、もし王家の馬車でしたら、ケイドンよりも離れた辺境伯の街からでも、2、3日での移動は可能かと」
「マジか」
「それも見越して、この日付……簡単には断れないようにってことなのではないかと」
――うわー、最悪。
参ったなぁ、と悩んでいると、精霊たちが集まってきた。
『なになに、またサツキのこといじわるしにくるの?』
『じゃましようか?』
『けしてやろうか?』
「いやいやいや、物騒な話はやめて!」
キャサリンがその中にも含まれてるって!
思わず叫ぶ私に、ネドリは精霊たちのやらかしそうなことを察したのか、青い顔になる。
「と、とにかく、受け入れ態勢考えないとよね」
「そうですね(彼らが精霊やエイデン様の怒りに触れなければいいんですがねぇ)」
私とネドリは、手にした手紙を忌々しく思いながら、大きなため息をつくのであった。





