第401話 防風林、冒険者、王都からの手紙
風向きが悪いせいで、温い風が村の中を抜けていく。
山から降りてくる風であれば、まだ涼しいのだけれど、ケイドンの街のある荒地側からは、埃っぽい風が吹いてくるのだ。今日の風向きは、まさにそれだ。
山裾近くとはいえ、元々が瘴気の跡地。なんとか浄化はしたものの、本来が荒れた土地に無理やり作った村だっただけに、日差しがキツイことに、今更ながらに気が付いた。
一応、ユグドラシルの近くに建っている家々はまだマシなようだけれど、村の中でも外側、石壁近くの家周辺は、昼間は特に暑いようだ。
「こうも埃っぽいと、洗濯物も干せないわ」
「天気はいいのにねぇ」
ハノエさん、テオママ、マルママのママ軍団は、お揃いの大きな麦わら帽子をかぶり、スカートを膝くらいまで上げながら、ユグドラシルの足元の池に足をつけて涼んでいる。木陰の範囲が広いおかげで、ここは村人たちにとって、昼下がりの休憩にはもってこいの場所になっている。
「防風林とか植えたら、少しは違うのかなぁ」
私もママ軍団とともに、涼んでいる。今日の私はTシャツに薄手の長袖のパーカーに、ハーフパンツ。ひざ下は完全に日焼けしそうではある。
「ぼうふうりん?」
「なーに、それ?」
テオママ、マルママ、さすが姉妹だけに、似たような顔で問いかけてくる。
「海岸線とかの海風の強いところに、風よけで植えてる木のことかな」
村の堀の内側にマギライで生垣は出来ているけど、残念ながら背の高い木ではないので、風よけになっていないのだ。
ママ軍団と、もし植えるんだったらどんな木がいいか、なんて話していると。
「サツキ様~」
孤児院の最年長で、司祭様のお手伝いをしているマークくんが走ってきた。
「なに~?」
めんどくさがって、顔だけマークくんの方に向けて、座ったまま返事をする私。
「なんか、冒険者の人が手紙を持って来てます~」
「……は? なんで?」
「いや、俺に聞かれても」
「私宛ってこと?」
「あ、はい。受け取るのは本人じゃなきゃダメらしくて」
「うーん、わかった」
よっこいしょっと池の端から立ち上がる。びしょびしょの足元が、一瞬で乾くのは、精霊たちのおかげ。何もしなくても乾かしてくれる彼らに感謝。
さすがに日差しの強い外で待たせるのは忍びなかったようで、冒険者は教会の中で待っていた。手紙を持ってきたという冒険者は、20代の半ばくらいだろうか。
孤児の誰かがお茶でも出したのであろう。手元の木のコップの中を覗き込んで残念そうな顔をしている。ちょうど飲み切ったといったところか。
私が教会の中に入ってきたのに気付いたようで、すぐに顔つきを変えた。
「あんたが、サチュキ・モチヂュキかい?」
「あ、はい」
ちょっと読み方は違うんだけど、発音に慣れないうちは、こっちの人には呼びづらいらしい。私が返事をすると、冒険者の男性は、斜めがけのバッグから黄色味がかった封筒を取り出して、私の方へと差し出した。
「王都の冒険者ギルドからの依頼で来たんだ。一応、受領のサインを貰えるか」
「あ、はい」
男の差し出した小さいメモのような紙に、サラサラッとローマ字でサインをする。なんか、そういう雰囲気ってあるじゃない?
「……よし、確かに渡したぞ。嬢ちゃん、茶、うまかったぞ」
「はーい」
奥の部屋にいたのか、女の子の元気な返事が聞こえた。
「わざわざ遠いところ、ありがとうございました」
「これが俺の仕事だからな」
ニカッと笑った冒険者は、そのまま教会から出ていった。
「……で、誰からの手紙なのかな」
私は手元の封筒に目を向ける。
宛名の字はなかなか達筆……に見えるけど。
当然ながら、読めませんでした。あははは。





