第397話 エイデンの怒りと、我儘姫対策
――うわー、ネドリ、顔が真っ青だわ。
青から白にすら変わりそう。
「ネドリ、これ以上、五月の生活の邪魔になるようなら……国ごと滅ぼすぞ」
エイデンの背後から黒いオーラが見える……気がする!
音なんか聞こえないのに、ゴゴゴゴっていう擬音語が浮かんでる……気がする!
「きょ、極端すぎるよ! エイデン、落ち着いて!」
滅ぼすとか、後味悪すぎるでしょうが!
慌てて、エイデンの腕を掴む私。
一方で、「申し訳ございませんっ!」と、土下座するネドリ。それに気付いた獣人たちも慌てて土下座。生土下座、初めて見たわ。
意味がわかっていない、司祭様や子供たちは、ポカーンだ。
「エイデン、滅ぼすのは止めよう。滅ぼしたら、ほら、もしかしたら、難民とか来て、もっと面倒になるっていうか」
冷や汗をかきながら、エイデンを説得しようと思うんだけど、上手い言い方が思い浮かばない。
「と、とにかく、その、我儘姫がネドリのことを忘れてくれるのが、一番いいわけだし、なんか、そういうのって出来ない?」
「……俺には、そんな細かいことは出来ん(やれなくはないが、力加減が難しいし、失敗したら、頭が吹っ飛ぶ。吹っ飛んだら、五月が怒る。絶対、嫌だ)」
「う、うーん、じゃ、じゃあ……モ、モリーナさん! 魔道具とかでなんとか出来ませんか!」
司祭様たち同様、ポカーンとしたまま肉をくわえていたモリーナさんに声をかける。
「へ?」
「だから、魔道具で、記憶を無くすとか」
昔のSFの映画で、棒みたいなのをポチッとしたら記憶を無くす、みたいなのがあったし! 異世界なら、なんか、そういうのがあってもいいんじゃないかって……。
ゴクリと肉を飲み込み、一瞬考えるモリーナさん。
「……魔道具は無理ですけど、そういう薬があるって聞いたことはあります」
おおお!
「え、じゃあ、オババさん! 薬、薬、作れば!」
「……サツキ様、私もその薬は知ってはいるがなぁ。ありゃぁ、素材を集めるのが難しいんだよ……それに調薬するための魔力も……(そもそも、あれはなぁ……)」
眉を八の字にして答える、オババさん。
素材はなんとか出来ても、魔力がネックなのだとか。元々、獣人自体が大した魔力がないから、獣人でも薬師で若干魔力が多めと言われているオババさんでも、足りないらしい。
「でしたら、私どもの方でご用意しましょう」
エイデンの背後にいたカスティロスさんの言葉に、皆の視線が集まる。
「私の親族には薬師の一族がおります。そちらに問い合わせてみます」
問い合わせるって、どうやって?
こちらでは、未だにスマホみたいな通信機器は見たことも聞いたこともなかったのだけど、手紙を送ることのできる魔法陣の書かれた紙があるのだとか。
ただ、かなり貴重な物なので、滅多には使わないのだそうだ。
「面倒事が来る前になんとかしろ」
「仰せのままに」
深々と頭を下げるカスティロスさん。
――え、いいの? そんなこと言って。
私の心配をよそに、頭をあげた時のカスティロスさんの顔には、余裕の笑みがあった。
……もう、知らないぞ。





