第396話 ジェアーノ王国の国境の話
村に着いてみれば、先程までのバラの上品な匂いとは真逆な、肉の焼ける美味しそうな匂いが漂っている。
一緒に来たルルーちゃんたちは、司祭様の姿を見つけて走っていってしまった。
「五月!」
大きな肉の塊を持ち上げて、いい笑顔で声をかけてきたエイデン。
口元にタレがついてるぞ。
「お疲れ様。美味しそうね」
指先で口元をさしてやると、慌てて拭って、へらりと笑うエイデン。
残念イケメンに、気が抜ける。
「五月の好きなフォレストボアの肉だ。あっちに、まだ山ほどあるぞ」
正しくは、ボア(猪)系の肉が好きなだけで、フォレストボア限定ではないんだけど、あえて訂正はしない。
こっちのボアの肉、魔物だからなのか、食べている物が違うからなのか、あちらよりも脂がのっていて、旨いのだ。
エイデンが指さした東屋の方では、煙がモクモクと上がっている。
「エイデン様、フォグベアはどうでしたか」
タレを差し入れに行こうとした所で声をかけてきたのは、まだ村に残ってるカスティロスさん。帝国に小麦を売りに行かなくてもいいんだろうか。
彼らの会話が気になったので、立ち止まる。
「残念ながら、かなり数が減ってしまったな」
それはエイデンが狩りしすぎたから? とツッコミそうになった。フォグベアの肉は上等な牛肉みたいで美味しいのだ。薄切りにして、すき焼きにしたい。
二人の会話の感じから、どうも今回の肉祭りの中には、そのフォグベアは含まれていないようだ。
よくよく聞いてみると、帝国のバカな魔法の攻撃と、それのせいで周辺の環境が荒れて、激減しているらしい。
「数が増え過ぎても困るが、少なければ少ないで、瘴気が増え過ぎてしまうからな」
「まったくです」
「……瘴気が増えるって、どういうこと?」
エイデンが教えてくれたことによると、フォグベアは魔獣の中でも、少し特殊らしく、木の実や虫等を食べる他に、瘴気も吸収して大きな身体を維持してるのだとか。
「知らなかった」
「アレらが多く生息している場所は、それだけ瘴気も濃い場所だともいえるんだが、帝国の連中は、わかっていないんだろう」
「では、帝国との国境近辺は」
「五月の桜のおかげでジェアーノ側はだいぶマシだ。元々、瘴気が多いのは帝国側の土地。ユグドラシルの苗木を植えたはいいが、瘴気の増えるペースの方が早い」
桜並木、結界張るだけでなく、瘴気にも対応してた! 凄い!
「自業自得とはいえ、一番苦しむのは、末端の者たちだからな」
渋い顔のエイデン。なんか、まともなこと言ってるわ。
「どこも上が馬鹿だと、迷惑を受けるのは下の人間よね」
「上が馬鹿といえば、獣王国の方もですな」
「我儘姫ね」
「うちの者の情報では、我儘姫が王都を出たらしいですよ」
「え、どこに向かったの?」
「……そりゃぁ、ねぇ?」
――えー。何それ。
意味深な言い方に、目的地、ここ、しか思い浮かばない。
首を傾げていたエイデンに、先日の冒険者の話を説明すると、エイデンは凄い形相でネドリを呼びつけた。





