第395話 子供たちとバラ
偽物冒険者たちの件があって1週間経った。
グルターレ商会の方々はまだ村に逗留しているようで、その間、彼らはあちこちに連絡をとっていたようだった。
ネドリたちもダンジョンから戻ってきていて、冒険者の件をカスティロスさんやハノエさんから聞いたようだ。
今後、どんな対応をするつもりなのか、は彼らに任せるしかないけれど、皆が平穏に生活できるように考えてくれるといいな、とは思う。
一方の私は、のんびりとログハウス周辺のメンテナンスに勤しんでいる。
伐採した木々の切り株からは、新しい芽が出ていたり、日当たりがよくなった所には雑草が生えだしていたりと、やることはそれなりに色々とある。
特に、トンネル側の道沿いに植えたバラが、見頃を迎えている。
様々な色合いのバラが並んでいて、なかなかに壮観。中には濃い匂いのものもあって、バラの匂いが充満している。
私にはいい匂いに感じるんだけど、匂いの強さのせいで、マリンやホワイトウルフたちは、近寄ってこない。その代わりに、というわけではないけれど、蜂たちが、ブンブンと飛び回っている。
「今日は、この赤いのがいいかな」
そろそろ開ききるかな、というバラを摘んで、手元の籠に載せていく。
このバラの花びらで、ポプリとローズウォーターを作るつもり。余裕があったら、アロマオイルも出来たらいい。
鼻歌を歌いながら、バラを摘んでいると、子供たちの賑やかな声が聞こえてきた。
「サツキ様!」
先頭を、孤児院の子供の中で、年長組を除いて、一番年上のルルーちゃんが走ってきた。
「こんにちは。今日はどうしたの?」
「あのね、エイデン様が戻ってきたの!」
「魔物のお肉、いっぱい!」
「わたしたち、ハノエ様に頼まれて、サツキ様に知らせにきたの!」
「今日の夜は、『やきにくぱーてぃ』だって」
ルルーちゃんの後を追いかけてきた子供たち4人が、私のまわりに集まってきた。
年上の子から、エリーちゃん、エフィムくん、ボルトくん、カロルちゃん。
来たばかりの頃の、痩せて薄汚れた感じはすっかりなくなり、キラキラとした目で見上げてくる。
いつもなら、ガズゥたちが知らせにくるのに、彼らがいないということは、エイデンが持ってきた魔物のお肉が、かなりの量で、ガズゥたちも解体に駆り出されてるのかもしれない。
「わかったわ。一仕事終えたら向かいますって、伝えてくれる?」
もうちょっとバラを摘んだら、焼肉のタレを作って持っていくのがいいだろう。
村の女性たちも用意はしているだろうけど、色んな味があってもいいはずだ。
「うん、エフィム、ボルト、お願いね」
「うん!」
「……(こくり)」
一緒に来ていた男の子たちが、走っていく。残ったのは女の子が3人。
「あの、お手伝いすることありますか?」
ちらっと私の手元の籠に目を向ける子供たち。
うん、せっかくだったらお願いしようか。タブレットを取り出して『収納』から、私のと同じ大きさの籠を1つ取り出す。
「このくらい咲いているバラの花を摘んでくれる?」
「はいっ!」
女の子たちが嬉しそうに返事をすると3人一緒に、バラの花を摘みに向かった。
――子供たち用にサシェを作るのもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、赤いバラの花に手を伸ばす私なのであった。





