第392話 我儘姫の噂
村の入口に着くと、ちょうどグルターレ商会の最初の荷馬車が入ってくるところだった。
「あれま。今回は随分と荷馬車が多い……」
門から外を覗くと、あと6、7台ほどの荷馬車が行列になっていた。
さすがに、あれ全てを、うちの村で下ろしていく物ではないだろう。
そう思いながら、カスティロスさんの姿を探すと、出迎えていたハノエさんと談笑している。今日は、ネドリは村人たち数名とダンジョンに行っているそうなので、ハノエさんが対応するようだ。
私は入ってきた荷馬車の方に目を向ける。
見覚えのあるエルフの護衛と冒険者たちの姿が見えた。私の姿に気が付いたのか、それぞれに手をあげたり、会釈をしてくる。
「お久しぶりです」
「また来ましたよ」
中でも、Bランクパーティ『焔の剣』のリーダー(人族)が、ニコニコしながら声をかけてきた。
「今回は、随分と荷が多いですね」
「ほとんどが小麦などの食料なんですがね」
なんでも、獣王国と帝国の一部で酷い洪水が起きたらしく、特にその地域は小麦の産地だったそうで、壊滅状態なのだとか。
幸いなことに、コントリア王国は去年の豊作のおかげもあって、備蓄が多く、余剰分を買い上げてきたのだそうだ。
「大変ですねぇ」
「ハハハ、まぁ、噂では我儘姫に天罰が下った、なんて話もあるんですがね」
「……は?」
「いやぁ、その洪水が起きたっていう領地が、我儘姫……ってご存知ですよね?」
そりゃぁ、知ってますがな。
渋い顔をしながら頷く私。
「その姫の領地だっていうんですよ」
国王が末の姫のためにと、わざわざ王領だったところを、姫専用の領地にしたのだとか。
我儘姫のお小遣い領地か!
「そこは帝国の一部とも接している所でしてね。今回の洪水で橋まで壊れて、通行できなくなっているらしいんですわ。まぁ、幸いなことに、死人も怪我人も出てないっていうんで、よかったといえば、よかったんでしょうが」
そこで、噂が出ているらしい。
なんでも、季節外れの大雨だったらしく、精霊たちに嫌われただの、神の怒りに触れただのと言われているらしい。
……チラリと精霊たちのことが頭をよぎる。まさかね。
「カスティロスの旦那は、こりゃぁ、小麦を持ち込めば儲かるってんで、こんなに買い込んだわけで」
実際、うちに下ろす予定の商品は荷馬車2台分だけらしい。
我儘姫の領民には気の毒ではあるが、我儘姫に一矢報いた気になってしまうのは、仕方がないと思う。
「そういえば、その我儘姫が冒険者ギルドに出している依頼って、ご存知です?」
リーダーさんに聞いてみると、獣王国の方では、それはそれは有名な話なんだとか。
「あ、俺たちは、受けてませんからね!?」
両手を振りながら否定しまくるリーダーさんに、思わず笑ってしまう。
「コントリアのギルドにも出てはいましたが、こっちの人間は獣人ってだけで下に見るのが多いんで」
そもそも受ける以前の問題なんだそうだ。
受けないなら、それでいいって言う話なんだけど。
ちなみに『焔の剣』の人族(リーダーさんと、もう一人)は、帝国の先、ジェアーノ王国の近くの小さい国の出身なんだそうだ。
リーダーさんと並びながら、続々と入ってくる荷馬車を見送っていると、突如、門の外から怒鳴り声が聞こえてきた。
「何事?」
「サツキ様は、ここでお待ちください」
さっきまでの気さくな感じから、急に言葉遣いが変わったリーダーさんが、怒鳴り声の聞こえた荷馬車の方へと駆け出していく。





