第382話 雨と不穏な空気
久しぶりに、外はしとしとと雨が降っている。
そのせいもあって、少し肌寒い。黒猫(にしか見えない)のマリンは、私が作ったクッションの上で丸くなっている。
パチパチと暖炉で薪がはぜる音がする。
今日は、のんびりとログハウスの中で、ミサンガ作り。村人たちへのプレゼントだ。
最近、村の空気が、少しピリピリするような、緊張感をはらんでいる。
獣王国の拠点のメンテナンスに行った後から変わった気がする。
たぶん、ケニーたちを追いかけていた冒険者たちが原因なんだろう。それぐらい、私でもわかる。
あの人達が村まで追いかけてくるかわからないけど、最悪を考えて、最善を尽くしておくに越したことはない。
ミサンガ作りも、その一つだ。
特に、姿を変える魔道具のおかげで、ケイドンの街にも行く機会が増えた。どこで、彼らと遭遇するかもわからないし、そうでなくてもトラブルに巻き込まれた時の一助になれば、と、せっせと作っている。
今、村の周辺で一番の穴と言えるのは、桜並木。最初に植えたのが、『ヒロゲルクン』で植えた結界機能無しの桜だからだ。
魔の森からの帰りに気付いた私は、戻って早々、機能付きの桜と交換するために、挿し木から新しい苗を育て始めた。
一応、土の精霊たちにお願いしているので、あと2,3日もすれば植え替えできるだろう。
機能無しの桜は、せっかくなので道を挟んだ反対側、山裾に植え替えるつもりだ。結界の内側に植えてしまえば、関係ないし、せっかくサクランボが生るかもしれない木を、廃棄や木材にしてしまうのは、もったいない。
その次に気になるのが、水堀の内側、低木のマギライで囲われている畑だ。
水堀とマギライで魔物は寄ってはこないだろうけれど、人はそうはいかない。
かといって、結界を張るような果樹を植えると、日当たりとかで、畑のほうに影響がありそうだ。
「……普通に、警報装置みたいなのを置けばよくない?」
ポロッと自分で言った言葉に、一人でうんうんと頷く。
この手の物だったら、モリーナさんあたりが魔道具で作れそうな気がする。なければ、ホームセンターで見てきてもいいし。
「そうだ、人感センサーとかで光を当てるってのもアリか。侵入者ってイメージ、夜の方が多いし。こっちには同じようなの、あるのかなぁ」
これに攻撃手段まで追加したら、ちょっとした要塞みたいだ、と思ったら、ちょっと笑ってしまう。
「あと、私に出来るようなことってあるかなぁ……」
出来上がったミサンガを手に、ため息をつく私なのであった。
* * * * *
ホワイトウルフたちは、五月の不安な気持ちに敏感だ。
獣人たちの噂話も、耳に入ってくる。
『……怪しい侵入者がいたら攻撃しても構わん』
ビャクヤの怒りのこもった声に、ホワイトウルフたちの目がギラリと光る。
* * * * *
精霊たちは、あちこちから噂話を集めてくる。
それこそ、村の周辺だけではなく、世界中から集めてくる。
『まったく、あのブタネコのせいで、むらがおちつかないじゃないか』
『さつきもかおがくらいよ』
『ブタネコ、ブタネコ!』
『あれも、いいかげん、げんじつをみろってね!』
『なぁ、あれ、やいちゃう?』
『え、だったら、こおらせちゃう?』
様々な精霊たちが、こしょこしょと、話し込んでいる。
どんどんとテンションが上がっていく彼らを止める者はいない……。





