第378話 立ち枯れの敷地と、村の様子(2)
私が東屋に着くころには、三つ子はガズゥたちに突撃していた。
三つ子の中でも身体の大きいオスのムクが、敷居越しにガズゥの背後から抱きついたようだ。
「なんだよ! ムク、邪魔するなって!」
『ガズゥ、あそぼうよぉ』
「こら、引っ張るなよ」
「だめだぞー」
「……だめ」
完全にじゃれつかれて、困ってるガズゥ。
「こらっ、ムク、邪魔しちゃ駄目よ」
私はムクの首を抱きしめて、なんとかガズゥから剥がしてあげる。で、デカい上に、重いぞっ。
『だって、さつき~』
剥がした途端、今度は私の足元をウロウロしだしたので、頭をなでなでしてあげる。メスのウノハナとシンジュは大人しくしてるのに、やっぱりオスだからだろうか。
「サツキ様、おはようございます」
司祭様がニコニコと挨拶をしながら東屋から出てきた。
「おはようございます、勉強の邪魔をしてごめんなさい」
「いえいえ……しかし、立派なホワイトウルフたちですね」
「身体は大きいんですが、まだ子供でして」
「ほお、そうなんですか……それと、そちらは」
司祭様はマリンに気が付き、固まった。
「あ、えーと、黒猫のマリンです。ちょっと怪我をしているところを助けまして」
「さ、左様でございますか(……この神々しさは、ただの黒猫ではありませんね。さすが、サツキ様です)」
せっかくの機会なので、どんな勉強をしているのか覗かせてもらう。
一応、コントリア王国では、10歳から教会で文字や計算などを教えてもらえるのだとか。ただ、小さい村などにはないので、そこまで通うことになるのだそうだ。
しかし獣王国では、そういった教育にはあまり熱心ではないようで、前の村であったなら、村長の息子であるガズゥだけが最寄りの大きな街の学校に通うことになっていたかも、とガズゥが言う。
それって、もしかして、村の獣人たちのほとんどが文字が読めない、ということだろうか? それとも、独学で学んでいたりするんだろうか。
そんな中、この前、教会からの手紙はネドリに読んでもらえたのはラッキーだった。伊達に元Sランク冒険者じゃないってわけだわ。
テーブルの上に目を向けると、そこに置かれていたのは、黒みがかった石板。白っぽい石で字を書いているようだ。こっちはガズゥたちの練習用か。
一方の司祭様の見本となるものは、藁半紙よりもあまり質のよくない紙に書いてある。
しかし、タブレットの『翻訳』頼みの私には、ハッキリ言って読めん。
私もちゃんと読めるようになるべきか。でも、今更、外国語を習うのもなぁ、とか、ちょっと後ろ向きになりそうなところで、ガズゥたちが嬉しそうに石板を見せにくるから、上手だね、と褒める。読めないけど。
――今度、あっちに行ったら、筆記用具とか買ってこよう。
100均で売ってるA4サイズのホワイトボードだったら、石板みたいに書いても消せるし、紙だって大量買いしてもたかが知れてる。
それに勉強する場所も東屋ではなく、学校というほどではないものの、ちゃんと専用の建物も用意してあげたほうがいいかもしれない。
考えだしたら、ちょっとワクワクしてきた(自分の勉強のことはおいといて)。
「さてと、みんなの邪魔になるから戻るよ……じゃ、頑張ってね」
手を降ってその場を離れ、ホワイトウルフたちを引きつれて、立ち枯れの敷地に入ろうとした時。
「あ、サツキ様!」
今度はモリーナさんに声をかけられた。
「おはようございます! あっ!」
私が挨拶を返す前に、彼女の視線の先にスーパーカブが映った。
「もしかして、あの乗り物で来られたんですかっ!」
「げっ」
慌ててスーパーカブに向かって走る私。
「ま、待ってくださいっ! ふがっ!?」
……モリーナさんが、見えない壁に激突した。
そうだった。
まだモリーナさんたちエルフは、立ち枯れの拠点やログハウスのある山の結界内への立ち入りは許可してなかったんだった。
ホッとした私は、獣人の婦人たちにモリーナさんの世話を任せて、そのままそそくさとスーパーカブに乗って、ログハウスへと戻るのであった。





