第372話 司祭の来訪
先に現れたのは、ビャクヤ。その彼の後をついて、ハクとスノーまで現れた。
『どうされました』
「ごめんね。ちょっと、ケイドンの街の司祭様がいらっしゃったんだけど……万が一があったら、と思って、一緒に来てもらいたくて」
『なるほど』
『大丈夫だ、俺たちがいる』
『そうだ、そうだ』
「……大丈夫だと思いたいわ」
ビャクヤたちが現れるまでの間に、門番担当の獣人が、司祭さんに声をかけたのだけれど、代表者とお会いしたい、としか返答がない。
エイデンは山から離れているのか、まだ来ない。
ネドリたちが獣人の姿で出ていっても大丈夫か、どうかはわからない。
イグノス様の村って思われてはいても、司祭様自身が人種差別をするような人か、そうでないか、一度しか会ったことのない相手だけに、判断が難しい。
――やっぱり、私が行かないとダメだろうなぁ。
あんまり待たせる訳にもいかないので、私はビャクヤたちを引きつれて、するっと門から出ていく。
「おお! 御子様! わざわざ、申し訳ございません」
「いえいえっ」
なんか聞き捨てならない言葉があったような気もしたけれど、司祭様が深々と頭を下げてきたので、私も慌てて頭を下げる。
後ろに控えているお付きの人に目を向ける。年の頃は10代半ばくらい。最初は無表情に付いているだけのようだったのに、ビャクヤたちを連れて私が出てきたら、大きく目を見開いて、明らかに怯えている。
……そりゃぁ、こんなにデカいホワイトウルフを見たら、恐いわな。
むしろ冷静な司祭様の方が、肝が据わっていると言うべきか。
「えーと、どういったご用件でしょうか」
「少し、お願いしたいことがございまして」
「お願い、ですか」
お願いって、何だろうと思ったら、うちの村に教会の設置をお願いしたいのだとか。それも、正式に教会本部からお手紙まで渡されてしまった。
残念ながら、司祭様の目の前でタブレットを出すわけにもいかないので、受け取るだけ受け取る。
「村の者たちに確認させて頂いても」
「確認だと?」
そう不機嫌そうに言ったのは、司祭様の後ろに隠れて怯えていた、お付きの人。さっきまで怯えてたくせに、いきなり偉そうだ。
ハクとスノーが後ろで小さく唸りだしたので、どうどう、と落ち着かせる。
「ええ。村長は別におりまして、今は、ちょっと不在なものですから」
「……使えない」
「これ、ボムス」
「……」
司祭様に窘められたボムスなる少年は、司祭様にすら、不遜な目つきを向ける。
「それでは、御子様、確認がとれるまで、敷地の端で構いませんので、休ませて頂いてもよろしいでしょうか」
やっぱり、なんか違う名前で呼ばれてるし。
それに、さすがに、村の外で野宿とかマズイでしょ!
「早めに連絡をとりますので! それと、あの、私はミコではなく、サツキ・モチヅキです」
「……ええ、ええ、そうでしたね」
ニコニコと微笑む司祭様は、好々爺って感じ。
悪い人には見えなさそうだけれど。
「ピエランジェロ司祭! 私は街に戻らせていただきますよ! ゲレロ司祭様には、ここまで送り届けるだけだと、申しつかっておりますからっ!」
うわー、こいつ、老人放って帰るとか言いだした!
「……ああ、いいとも。私の荷物だけ下ろしたら、街に戻るがいい」
司祭様の言葉に、すぐに荷馬車の方へと走っていくボムス少年。
「ご一緒ではなかったのですか?」
「……ええ。お恥ずかしい話なのですが、あの者は新しく赴任してきた司祭が付けた、監視のような者でして」
……おう。





