第371話 姿を変える魔道具
モリーナさんが作ってくれた、姿を変える魔道具のおかげで、最近は最寄りの街であるケイドンまで、頻繁に買い出しに行けるようになった。頻繁、といっても、2週に1回のまとめ買い。最近の私が、あっちに買い物に行く頻度よりは多いかもしれない。
魔道具自体は、アクセサリー職人のアビーさんとの共同作成なので、ブレスレットの形をしているのだけれど、素材となる物に貴重な物が含まれているそうで、5個しか作れなかったのだとか(素材以上に、お金も相当かかったらしい)。
なので保管は村長であるネドリ、もしくはハノエさんだそうで、街に買い出しに行く度に貸し出している。
今日はその買い出しの日だったらしく、日が昇る前にスコル・メリー夫妻をリーダーに、他に3人の獣人が買い出しに向かったらしい。
午前中の家の仕事を終え、お昼ご飯を食べ終えてから村の方にやってきた私。『収納』に貯まってしまった牛乳をお裾分けにやってきた。
私が渡した1リットルの牛乳瓶を、腕の中に抱え持つテオママとマルママ。子供たちが牛乳好きになったので、お裾分けは嬉しいらしい。
「ついでに、冒険者ギルドの依頼とかもこなせたらいいんだけど」
「ギルドカードの確認で、獣人ってわかったりしないの?」
話題は、ケイドンの街の冒険者ギルド。
ダンジョンや山で獲れた魔物素材などは冒険者ギルドで買取してくれるらしいのだけれど、一般人としてではなく冒険者として買取してもらった方が、ランクアップにポイントが加算されるらしい。
村人たちの何人かは、登録済みということで、もったいないって話。
私自身、冒険者ギルドには1回しか行ったことがないし、どんな機械と仕組みになっているのかもわからないので、何とも言えず。
「バレたら面倒なことになるからって、誰も試してないみたいよ」
「だったら、ケセラノ(獣王国の街)で試してくればいいじゃない」
「試すよりも、どの程度確認されるのか、普通に聞いてみればよくない?」
「……そうね」
なんてことを話していると、村の入口の方が騒がしくなった。
「もう戻ってきたのかしら」
「え、早すぎない?」
買い出しに向かうのは、当然、私の軽トラみたいなのではなく、普通の馬車。行って帰ってくるにしても、日が暮れたころになるのに。
何かあったのかと、入口の方に向かうと、珍しくネドリとハノエさんがいた。
「どうしたんですか」
「ああ、五月様、よかった! 実は」
困った顔のネドリが、入口の門を少しだけ開けて、外の様子を見させてくれた。
「え」
なんと、この前、村にやってきた司祭様が門の前に立っているではないのっ!
「ど、どういうことです?」
「わかりません」
もう一度、外を見ると、司祭様一人だけではなく、もう一人、お付きの人っぽいのが後ろにかしずいている。
背後には小さな荷馬車……え、荷馬車に乗って、司祭様来たの?
「えと、誰か、司祭様に用件を聞いたりは」
「これから声をかけようか、としていたところでして」
買い出し組に魔道具を貸し出していて、村には残っていないのだとか。
声をかける分には、姿は見せなくても済むので、用件次第で私を呼びにいかないと、と思っていたらしい。
相手があの司祭様では、さすがに私一人では荷が勝ちすぎる。
たまたまそばにいた、風の精霊にビャクヤかエイデンに声をかけてきてとお願いした。
「面倒ごとじゃないといいんだけど」
思わずため息が零れた私なのであった。





